猫の下部尿路疾患について、これまでの「膀胱の病気」という考え方から、かなり視野を広げてくれるガイドラインでした。
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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
FICという名前も変わるかもしれない
FIC(猫特発性膀胱炎)という名称自体が、あまり適切ではないのではないか、という議論が紹介されています。
将来的には、人医療でも使われているbladder pain syndrome(膀胱痛症候群)のような名称の方が、感染症との混同を避け、痛みの重要性を伝えやすいのではないかとしています。
ただし、このガイドラインでは現在のところFICという名称を使用しています。
central threat response systemという考え方
今回特に印象に残ったのが、central threat response system(中枢性脅威反応システム)という考え方です。
これは、脳が脅威を感じたときに神経系や内分泌系を動かす仕組みで、遺伝、エピジェネティクス、これまでの生活経験などによって過敏になることがあります。
FICは、単なる膀胱炎ではなく、この脅威反応システムが持続的に活性化された結果として膀胱に症状が現れる病態と捉えています。
つまり、感受性の高い猫が刺激の多い環境で生活することで発症しやすくなる。そのため治療も膀胱だけを見るのではなく、環境や生活スタイルまで変える必要があるということです。
FICは全身性疾患として考えるべきだ、と明記されています。
30年前の尿検査の見方とはかなり違う
結晶が見えたら「ストルバイトかな」、好中球が見えたら「感染かな」と考えていました。
30年前なら、それも仕方なかったと思います。
しかし現在は、結晶尿は健康な猫にもみられ、保存によって人工的に生じることもあります。また、結晶の種類と実際の尿石の種類が一致するとは限らず、結晶尿がなくても尿石は存在します。
感染についても、膿尿や細菌尿を見ただけで決めるのではありません。必要に応じて膀胱穿刺尿による培養で確認します。
尿沈渣だけを見るのではなく、その背景に痛み、ストレス、環境、行動まであるというのは、大きな変化だと思いました。
「前回FICだったから今回もFIC」と決めつけない
これも重要です。
若い頃にFICを繰り返していた猫でも、高齢になれば尿石症や腫瘍など別の病気を発症します。
再発するたびに、今回の原因は何かを考え直す必要があります。
特に高齢猫の血尿を「またFICでしょう」で済ませないことが大切です。
FICは薬のエビデンスが意外に弱い
FICでは、プレドニゾロン、ペントサンポリ硫酸、グリコサミノグリカンについて、有意な利益は示されていません。
さらに驚いたのが鎮痛薬です。
NSAIDsのメロキシカムやロベナコキシブ、ブプレノルフィン、ガバペンチン、プレガバリン、フルネベトマブなども、非閉塞性FICで有効性を検証した研究はまだないとしています。
もちろんFICは痛い病気なので鎮痛そのものは強く推奨されていますが、「この薬がFICに効く」というエビデンスは思ったほど揃っていません。
その分、MEMO(multimodal environmental modification)の重要性が大きいのでしょう。
尿道閉塞では高K血症への対応を整理できた
高K血症では、まず静脈輸液と閉塞解除が基本です。
徐脈やECG異常を伴う生命を脅かす高K血症では、グルコン酸カルシウムで心筋を安定化させます。ただしカルシウムは血清Kそのものを下げる薬ではありません。
Kを細胞内へ移動させる方法として、ブドウ糖単独、ブドウ糖+インスリン、テルブタリンなどがあります。
重炭酸Naも選択肢ですが、中心的な治療ではありません。
尿道閉塞では仙尾部硬膜外麻酔を積極的に考える
仙尾部硬膜外麻酔は、会陰、尾、陰茎、尿道、肛門の鎮痛が得られ、尿道カテーテル挿入を容易にします。
ガイドラインでは、すべての尿道閉塞猫で検討すべき手技とされています。
これは今後、尿道閉塞の処置で積極的に取り入れてもよさそうです。
<h2>尿道カテーテルは「押す」のではなく尿道をまっすぐにする
雄猫のカテーテル挿入では、陰茎を背側・尾側へ引いて、尿道を脊柱と平行になるよう直線化することが重要です。
力任せに押し込むのではなく、解剖学的に通りやすい形を作る。
また、閉塞解除時には「簡単に通った」「かなり難しかった」など、カテーテル挿入の難易度も記録しておくことが、次回の診療に役立ちます。
カテーテル抜去後に尿が出ない=再閉塞とは限らない
これも覚えておきたい点です。
カテーテルを抜いたあとに排尿しなければ、もちろん再閉塞は疑います。
しかし、排尿筋アトニー、痛み、尿道攣縮、入院ストレスなどでも排尿しないことがあります。
特に猫では、病院では排尿しなかったのに、自宅へ帰ると普通に排尿することもあります。
尿が出ないという一つの現象だけを見て判断するのではなく、猫全体を見る。
今回のガイドラインを通して一番印象に残ったのは、そこかもしれません。
FICも尿道閉塞も、「膀胱と尿道だけを見る病気」ではなくなってきています。
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