短頭種の眼の問題は、単に「目が出ている」だけではありません。
頭蓋形態の変化から、眼球突出、眼瞼異常、涙液異常、角膜防御機能の低下が起こり、その結果として角膜潰瘍や色素性角膜炎などにつながります。
この一連の病態をBOS(Brachycephalic Ocular Syndrome:短頭種眼症候群)として考えます。
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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
短頭種では角膜の感覚も低下している
短頭種では角膜の神経線維密度が低く、角膜知覚も低下しています。
角膜知覚低下
→ まばたきが減る
→ 涙液分泌が減る
→ 上皮維持・創傷治癒が悪くなる
という流れが考えられます。
つまり、短頭種の眼は「露出している」だけではなく、角膜を守る生理的な仕組みそのものも弱くなっています。
年齢とともに眼表面疾患のリスクが増える
1歳年を取るごとに、
・KCS(Keratoconjunctivitis Sicca:乾性角結膜炎)のリスク:約10%増加
・corneal pigmentation(角膜色素沈着)のリスク:約10%増加
・MGD(Meibomian Gland Dysfunction:マイボーム腺機能不全)のリスク:約20%増加
という報告があります。
短頭種ではもともとの形態的な問題に、加齢による涙液やマイボーム腺の変化が加わっていきます。
そのため、好発犬種では年1回の健康診断にSchirmer tear test(シルマー涙液試験)を組み込むことも提案されています。
涙の量だけでなく「質」も悪い
短頭種では、涙液量が少ないKCSだけでなく、涙液膜が不安定になる質的なドライアイも重要です。
特にシーズーでは、TFBUT(Tear Film Breakup Time:涙液層破壊時間)が平均5.3秒と、従来の正常値16.0~21.5秒よりかなり短いことが報告されています。
MGDによる脂質層の異常も関与するため、
「涙は出ているのに、すぐ蒸発してしまう」
という状態も起こります。
STTが正常だからドライアイではない、とは言い切れません。
短頭種の角膜潰瘍は非常に多い
英国の一次診療施設110院、約10万4千頭を対象とした大規模研究では、角膜潰瘍の発生率は全体で0.80%でした。
一方、短頭種では雑種と比較して、角膜潰瘍のodds(オッズ)が11.18倍でした。
犬種別では、
・Pug:5.42%
・Boxer:4.98%
・Shih Tzu:3.45%
・Cavalier King Charles Spaniel:2.49%
・Bulldog:2.41%
と報告されています。
短頭種では角膜潰瘍になりやすいだけでなく、深部角膜潰瘍や穿孔性潰瘍として来院することも多くなります。
また、短頭種でも犬種によって特徴が異なり、French Bulldogでは表在性潰瘍、Shih Tzuでは深部・穿孔性潰瘍が比較的多いとされています。
パグでは色素性角膜炎も重要
パグではpigmentary keratitis(色素性角膜炎)が非常に高頻度にみられます。
特にmedial lower eyelid entropion(内眼角側下眼瞼内反)との関連が示されており、内反が強いほど色素性角膜炎も重度になる傾向があります。
単なる犬種特有の色素沈着というより、慢性的な眼表面刺激や炎症の結果として考える必要があります。
チェリーアイも短頭種に多い
prolapsed gland of the third eyelid(第三眼瞼腺脱出、cherry eye)は、犬の第三眼瞼で最も一般的な原発性疾患です。
第三眼瞼腺を眼窩周囲組織に固定している結合組織が弱いことが発症に関与すると考えられています。
短頭種では中頭種より発症のオッズが高いことも報告されています。
角膜潰瘍ではフルオレセインだけでなくSTTも
一次診療で角膜潰瘍と診断された症例では、90%以上でフルオレセイン染色が行われていました。
ところが、STT-1(Schirmer Tear Test-1:シルマー涙液試験1)が行われていたのは4分の1未満でした。
短頭種の角膜潰瘍では、
「潰瘍がある」
だけで終わらず、その背景にKCSや涙液異常がないかを調べることが重要です。
オランダでは繁殖基準まで作られている
オランダでは、獣医師などの専門家によるtask forceが作られ、2020年に短頭種犬を“fit for breeding”(繁殖に適している)と判断する具体的な基準が採用されました。
BOSやBOAS(Brachycephalic Obstructive Airway Syndrome:短頭種気道閉塞症候群)に関係する基準として、
・安静時にstridor/stertor(異常呼吸音)がない
・鼻孔が開いている
・鼻皺が小さく、鼻皺の毛が眼球に当たっていない
・CFR(Craniofacial Ratio:頭蓋顔面比)が0.3より大きい
・bulbar conjunctiva(眼球結膜)の過剰な露出がない
・lagophthalmos(閉瞼不全)がなく、安静時に完全閉瞼できる
などが挙げられています。
特に「安静時に完全に眼を閉じられること」を繁殖基準にしている点が印象的でした。
形態異常が強ければ、原因そのものを治療する
顔貌が極端であったり、短頭化に関連する眼合併症がある場合には、
・medial canthoplasty(内眼角形成術)
・nasal fold resection(鼻皺切除)
・distichiasis(重生睫毛)の処置
・ectopic cilium(異所性睫毛)の除去
などを検討します。
角膜潰瘍を繰り返すたびに点眼するだけではなく、必要に応じて原因となっている形態そのものを修正するという考え方です。
日常的な眼表面の保護も考える
macropalpebral fissure(大眼瞼裂)やlagophthalmos(閉瞼不全)がある犬では、
昼間は防腐剤を含まない粘稠性人工涙液、
就寝時には眼軟膏
を使用することも提案されています。
ただし、こうした予防的な潤滑療法については、十分な前向き比較試験があるわけではありません。
また、眼周囲の長い毛が眼表面に接触しないよう、定期的に毛を整えることも勧められています。
短頭種の眼は、BOSとして全体を見る
短頭種では、
頭蓋・眼瞼形態
→ 閉瞼不全や異常毛
→ 角膜知覚低下
→ 瞬目低下・涙液分泌低下
→ 涙液膜不安定
→ 慢性的な眼表面障害
→ 角膜潰瘍・色素性角膜炎
という一連の流れがあります。
短頭種の角膜潰瘍を診たときには、潰瘍だけを見るのではなく、その背景にあるBOS全体を評価する。
そして必要なら、涙液管理だけでなく、眼瞼や鼻皺など形態そのものへの治療まで考える。
短頭種だから仕方がない、と済ませないことが大切だと感じたレビューでした。
た。
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