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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
細菌性角膜炎では、まず細胞診
猫の角膜潰瘍では、何となく抗菌点眼を始めるのではなく、まず細胞診を行い、細菌の有無や形態を確認することが重要です。
特に二次感染が疑われる場合や、潰瘍が急速に進行している場合には、好気性・嫌気性培養と感受性試験も推奨されています。
潰瘍性角膜炎の多くは局所抗菌薬で治療できますが、薬剤の選択や投与頻度は、潰瘍の深さ、進行速度、細胞診、培養結果によって決めます。
反射性ぶどう膜炎の痛みにはアトロピン
角膜潰瘍では、角膜神経への刺激からreflex uveitis(反射性ぶどう膜炎)が起こり、毛様体筋の痙攣が強い痛みの原因になります。
この痛みに対してアトロピン点眼は有効です。
ただし、アトロピンは涙液分泌を低下させる可能性があるため、使用前後には涙液量を確認します。
眼軟膏は長く効くが、角膜穿孔では使わない
眼軟膏は点眼液より結膜嚢内に長く残るため、投与回数を減らせるメリットがあります。
一方、角膜穿孔がある、あるいは穿孔しそうな症例では使用しません。
眼軟膏が眼内に入ると、uveitogenic(ぶどう膜炎を誘発しうる)ためです。
全身抗菌薬は、角膜に血管がなければ届きにくい
角膜穿孔や眼内炎が疑われる場合には全身抗菌薬も考えます。
ただし、全身投与した抗菌薬が角膜病変に十分届くためには、角膜に十分な血管新生が必要です。
正常な角膜は無血管組織なので、「飲み薬を出せば角膜感染にも効く」という単純な話ではありません。
角膜融解では、好中球自身が角膜を溶かす
keratomalacia(角膜融解、corneal melting)では、細菌が直接角膜を溶かしているだけではありません。
角膜に集まった好中球から大量のprotease(プロテアーゼ)やcollagenase(コラゲナーゼ)が放出され、それが角膜実質を分解します。
この論文では、角膜融解における蛋白分解酵素の重要な供給源は、むしろ好中球と考えられています。
そのため、抗菌薬だけではなく、自家血清、EDTA、アセチルシステインなどによる抗コラゲナーゼ・抗プロテアーゼ治療を1~2時間ごとに行います。
なお、血清は他の点眼薬と混ぜると抗コラゲナーゼ作用が失活する可能性があるため、混合しません。
Meltingでは外科治療も早めに考える
融解した角膜組織をデブリードすることは、単に悪い組織を取るというだけではなく、protease load(プロテアーゼ負荷)を減らす意味があります。
さらに角膜が脆弱になっている場合には、結膜移植などによって角膜を物理的に支え、同時に血流を供給します。
角膜融解では、内科治療だけで粘るのではなく、早い段階から外科治療の必要性を考えることが重要です。
FHV-1治療では、頻回点眼そのものがストレスになる
FHV-1(Feline Herpesvirus type 1:猫ヘルペスウイルス1型)の抗ウイルス点眼薬は、ウイルスを直接殺すのではなく増殖を抑えるvirostaticな薬剤です。そのため頻回投与が必要になります。
しかし、頻回点眼そのものが猫のストレスとなり、FHV-1の再活性化に悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、点眼が大きなストレスになる猫では、全身性抗ウイルス薬を選択する考え方もあります。
インターフェロンωは「単独主役」ではない
IFN-ω(Interferon omega:インターフェロンω)には抗ウイルス作用がありますが、このレビューでは単独治療の中心という位置づけではありません。
高用量を病初期に使用し、他の抗ウイルス薬に追加する補助療法としての可能性が示されています。
一方、実験的FHV-1感染では、経口・局所IFN-ωによって明確な臨床的利益が得られなかった研究も紹介されています。
この論文を読むと、角膜潰瘍は「抗菌点眼を出して様子を見る病気」ではなく、原因、感染、深さ、進行速度、角膜融解の有無を評価して治療を組み立てる病気だと改めて感じます。
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