酢酸リンゲル考

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輸液の話を研修医としていると、ときどき、「乳酸リンゲルより酢酸リンゲルの方がよいので、酢酸リンゲルを使いたい」という話を聞くことがありました。

確かに、両者には違いがあります。

乳酸リンゲルに含まれる乳酸は、主として肝臓で代謝されます。一方、酢酸リンゲルに含まれる酢酸は、筋肉など肝臓以外の組織でも代謝されます。

そのため、肝臓での乳酸代謝が大きく低下していることが疑われる患者や、血中乳酸値の変化を細かく追跡している重症患者では、酢酸リンゲルを選ぶ合理性があります。

しかし、「酢酸リンゲルの方が代謝上有利な場面がある」ことと、「普段から酢酸リンゲルを使った方が患者がよく治る」ことは、別の話です。

普通の症例では、両者の差はそれほど大きくない

乳酸リンゲルも酢酸リンゲルも、どちらもbalanced crystalloid(平衡晶質液)として使われる輸液です。

一般的な脱水、嘔吐や下痢、周術期の輸液などでは、乳酸か酢酸かという違いが治療の成否を決めることは、それほど多くないと思います。

酢酸の方が代謝上有利な状況があることと、酢酸リンゲルの方が臨床的に優れた輸液であることは同じではありません。

乳酸値が高いから乳酸リンゲルを避ける、ではない

特に誤解されやすいのが、高乳酸血症です。

血中乳酸値が高い患者に乳酸リンゲルを使うと、さらに乳酸が増えて危険なのではないか、と考えたくなります。

しかし、高乳酸血症だからといって、体内で乳酸をまったく処理できていないわけではありません。

乳酸は健康な動物でも常に産生され、同時に利用・代謝されています。

高乳酸血症は、多くの場合、

乳酸の産生 > 乳酸の処理

となっている状態です。

「乳酸をまったく代謝できない状態」と同じではありません。

乳酸リンゲルに含まれる乳酸ナトリウムも体内で代謝されます。

もちろん、大量かつ急速に投与すれば、一時的に血中乳酸値に影響することがあります。

そのため、乳酸値を短時間で繰り返し測定し、その変化を治療反応の重要な指標としている症例では、酢酸系輸液を選択する理由になります。

しかし、「乳酸値が高い=乳酸リンゲルは使わない」というほど単純な話ではありません。

肝障害ではどう考える?

乳酸は主として肝臓で処理されるため、肝臓での乳酸代謝が著しく低下している場合には、乳酸を含まない輸液を選択することには理屈があります。

ただし、「肝酵素が高い」というだけで乳酸リンゲルを避ける必要があるわけではありません。

重要なのは、ALTやALPが高いかどうかではなく、その患者で実際に乳酸を処理する能力が大きく損なわれているかどうかです。

また、重度の肝不全だから酢酸なら必ず安全、というほど単純でもありません。

結局は患者の状態を見ながら輸液を選ぶことになります。

輸液では、もっと大きな問題がある

むしろ私が気になるのは、補充が必要なのか、維持輸液が必要なのか、循環血液量を増やしたいのか、という目的を考えず、漫然と等張晶質液を流し続けることです。

乳酸か酢酸かという違いより、こちらの方が患者に与える影響ははるかに大きいと思います。

そもそも乳酸は、病気になったとき突然体内に現れる物質ではありません。

動物は生きている限り乳酸を産生し、それを利用し、代謝し続けています。

数時間から数日、乳酸リンゲルを使用することだけを過度に問題視する必要はないでしょう。

たとえて言えば、「100万円の借金があるのに、千円と二千円の違いを一生懸命気にしている」ようなものです。

もちろん、千円と二千円の違いが重要になる場面もあります。

でも、まず100万円の問題を考えた方がよい。

輸液も同じだと思います。

乳酸か酢酸かより、どう使うか

通常の犬猫の診療であれば、乳酸リンゲルでも酢酸リンゲルでもよい場面は多いと思います。

乳酸代謝の低下が問題になる、血中乳酸値を厳密に追跡している、といった状況では、酢酸系輸液を選択する理由があります。

しかし、多くの症例では、「どちらの輸液を選ぶか」よりも、「何の目的で、どれだけ、どの速度で投与し、いつ再評価するか」の方がはるかに重要です。

酢酸リンゲルを使うこと自体に問題はありません。

ただし、「酢酸リンゲルの方が上等な輸液」「乳酸リンゲルより安全」というほど単純な話でもありません。

製剤によってはコストも違います。

輸液療法で最も大切なのは、輸液バッグの名前ではなく、患者に今何が不足しているのかを考え、必要な量を必要な速度で投与し、その反応をきちんと評価することだと思います。

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