このガイドラインは、経済的・社会的な理由などによって動物病院に十分アクセスできないオーナーと動物に、どう獣医療を届けるかを扱っています。
現実に潰されていますが、それをどうあがくか、ですかね。
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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
獣医療へのアクセスは診療費だけの問題ではない
米国では4世帯に1世帯以上がペットの獣医療へのアクセスに困難を抱えており、その最大の理由は経済的問題とされています。また、緊急時に2,000ドルを用意できない人を「経済的に脆弱な状態」としています。
ただし、獣医療へのアクセスとは単に治療費を払えるかどうかではありません。交通手段、言語、身体的制約、家庭環境なども獣医療へのアクセスの問題になります。
診療の選択肢を広く持つ
Spectrum of Care(SOC)は、「科学的根拠を考慮しながら、オーナーの希望や経済的制約にも対応した、許容可能な診療の連続体」と定義されています。
安い治療をするという意味ではありません。オーナー側の制約を尊重しながら、患者にとって可能な限り良い結果を目指すことが目的です。
デリケートな扱いとなりそうです。
「治療費を払えない=飼う資格がない」ではない
このガイドラインでは、「困っているオーナー=無責任なオーナー」と最初から判断してしまうことを問題視しています。そう考えてしまうと、本来作れるはずの治療選択肢や支援方法を検討しなくなってしまうからです。
30万円の治療ができないから飼う資格がない、と考えるのではなく、30万円は無理でも5万円なら可能なのか、通院回数を減らせば可能なのか、入院ではなく外来なら可能なのか、他施設と連携すれば可能なのか、と考えます。
獣医療従事者自身も、自分たちが持っている偏見や先入観を見直す必要があるとしています。
ゴールドスタンダードを再定義する
このガイドラインでは、「その家族に提供できる医学的に妥当な選択肢をできるだけ広く持つこと」をゴールドスタンダードとして捉え直そうとしています。
オーナーが実行できない治療を処方して、できなかったら「治療に従ってくれない」と考えるのではなく、「そもそも実行可能な治療計画だったのか」を獣医師側も考えるということです。
コミュニティ・ケアは獣医師を守る仕組みでもある
コミュニティ・ケアは、患者・オーナーを支援すると同時に、獣医療従事者の道徳的苦悩を軽減することも目的としています。
「助けたいのに費用などの理由で助けられない」という状況を、個々のオーナーや獣医師だけの問題として抱え込ませず、地域と仕組みで解決していこうという考え方です。
病院の運営そのものも変える
獣医療へのアクセスを改善するには、治療内容だけではなく病院運営も変える必要があります。
獣医師の仕事を動物看護師へ適切に分担し、獣医師は本当に獣医師の判断が必要な仕事に集中する。遠隔診療やオンライン相談など、来院以外の接点を作る。診療費についてオーナーが相談しやすい環境を作る。言語や身体的なコミュニケーションの障壁を減らす。
こうしたこともコミュニティ・ケアに含まれます。
地域の連携先への紹介も正式な紹介診療として扱う
地域の連携先への紹介も、専門病院への紹介と同じように丁寧に行うべきとしています。
単に「うちでは高いから安いところを探してください」とするのではなく、相手の施設で何ができるのかを確認し、必要な検査を済ませ、カルテを送り、紹介後の経過観察を誰が行うかまで決めます。
低価格診療施設や非営利病院も、正式な紹介先として扱うという考え方です。
地域の連携網は小さく始める
最初から大規模なネットワークを作る必要はありません。
ガイドラインでは、「手間は少ないけれど効果の大きいことから始める」よう勧めています。
まずスタッフに、どんな理由で診療につながらなかった患者がいるのか、もっとどんなことをしてみたいのかを聞きます。そして、スタッフがすでに地域で持っている人脈、獣医師自身の知人や同僚、すでに地域に存在する支援団体を洗い出します。
地域の連携網をゼロから作るのではなく、「すでに院内や地域にあるつながりを見つけ、それを結びつける」ところから始めればよいということです。
まとめ
このガイドラインを一言でまとめるなら、「できない理由を探すのではなく、その家族にできる獣医療を探す」ということだと思います。
自院だけですべてを抱えず、地域の動物病院、非営利団体、シェルター、行政、社会福祉などをつなぐ。
その結果として、ペットをできるだけ家族のもとに残し、同時に獣医療従事者の道徳的苦悩も減らす。
閉ざされた環境からの解放が課題です。
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