iCatCare consensus guidelines on the diagnosis and management of chronic kidney disease in cats 2026を読んで

猫のCKD(Chronic Kidney Disease:慢性腎臓病)は、「腎不全になってから治療する病気」ではなく、無症状の段階から見つけ、IRISステージだけでなく、併発症、栄養、生活環境、さらに飼い主さんの負担まで含めて長期管理していく病気、という位置付けなのが印象的でした。

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

低血圧を伴う麻酔の繰り返しもCKDの原因になりうる

CKDの医原性の原因として、

・低血圧を伴う麻酔の繰り返し
・慢性的な腎毒性物質への曝露
・腎臓を照射野に含む放射線治療

が挙げられています。

慢性腎臓病の猫でも短時間の放射線治療を行ってきましたが、腎機能が悪化したという印象はあまりありませんでした。麻酔そのものというより、低血圧を繰り返さない、ということに納得。

CKDの進行では蛋白尿とリンが重要

CKD進行と関連するものの一つが蛋白尿です。

持続性蛋白尿はCKDの進行や死亡と関連し、UPC>0.4では腎臓療法食とRAAS阻害薬による治療を行います。

もう一つ重要なのがリンです。

高リン血症だけでなく、血清リンがまだ正常範囲でもFGF23(Fibroblast Growth Factor 23:線維芽細胞増殖因子23)が上昇している段階から、リン負荷を意識します。

体重減少はCKD診断の3年前から始まっている

500頭以上を対象にした研究では、CKD診断前の12か月間で体重は中央値8.9%減少していました。

しかも体重減少は、CKD診断の3年前からすでに始まり、その後さらに加速していました。

高齢猫の「少しずつ痩せてきた」を年齢のせいにしないことが大切ですね。

クレアチニンが正常でも、過去の自分と比較する

USG(Urine Specific Gravity:尿比重)<1.035が持続する場合には、クレアチニンなどが基準範囲内でも早期CKDを疑います。

また、クレアチニンが検査室の基準範囲内であっても、その猫の過去の最低値から25~30%を超えて上昇していれば重要な変化と考えます。

「正常値かどうか」より、同じ猫の経時変化を見るということですね。

CKD猫は尿培養陽性が多いが、無症候なら原則治療しない

CKD猫では尿培養陽性率が22~29%とされています。

ただし、すべてが尿路感染症ではありません。下部尿路症状や腎盂腎炎を疑う所見がない猫では、ルーチンの尿培養も推奨されていません。細菌尿の存在自体は、少なくとも高窒素血症のCKD猫では進行や生存期間に影響しないとされています。

飼い主さんの負担も治療の一部

このガイドラインでは、猫だけでなく飼い主さんの負担もかなり意識されています。

猫と飼い主さんごとに治療を個別化し、共同意思決定を行います。

薬を「全部やる」ことが必ずしも最善ではなく、治療の優先順位をつけ、長く続けられる形にすることが重要です。

具合が悪いときに、新しい腎臓食を始めない

入院中など具合が悪いときに、初めて腎臓療法食を与えないようにします。

体調不良時に食べた食事を嫌いになるfood aversion(食物嫌悪)を避けるためです。

また、リンを下げるために食べなくなって痩せるくらいなら、食べることを優先します。

CKD猫では、体重と筋肉量を維持することが非常に重要です。

腎臓食は100%でなくても意味がある

理想は腎臓療法食100%ですが、それができなくても諦める必要はありません。

摂取カロリーの50%以上を腎臓療法食にすると、生存期間への有益性が認められたとしています。

「全部食べなければ意味がない」ではないのですね。

血清リンが正常でもFGF23を見る

早期CKDで血清リンが

4.5 mg/dL未満

であれば、一見問題なさそうです。

しかし、ここでFGF23を測定し、

FGF23 >400 pg/mL
→ 食事中リンを制限し、FGF23 <400 pg/mLを目標

FGF23 300~400 pg/mL
→ 経過観察

FGF23 <300 pg/mL
→ 現時点ではリン制限強化の有効性を支持するエビデンスなし

としています。

血清リンが上がってからではなく、その前からリン負荷を見つける考え方です。

皮下輸液では低張液を理想としている

自宅皮下輸液が必要な猫では、

75~100 mL/猫を1~3日ごと

が一般に忍容されやすい量としています。

また、ナトリウム負荷を減らすため、理想的には0.45%NaClや1/2濃度の乳酸リンゲル液などの低張液を挙げています。

輸液を温める、おやつを使う、処置を手早く行うといった工夫も勧めています。

腎臓病では塩分を制限する一方で皮下輸液には等張液を使うことが多かったので、この考え方は納得できます。

日本で実際に何を使うかについてはガイドラインには記載がありませんが、開始液は検討しやすい選択肢かもしれません。

CKD猫の便秘は、まず脱水を考える

CKD猫では慢性的な脱水によって大腸から水分が再吸収され、便が硬くなると考えられています。

まず脱水と低K血症を補正し、それでも便秘が続けば、

マクロゴール
サイリウム
必要ならシサプリド

などを使います。

便秘は単なる排便の問題ではなく、悪心や食欲低下にもつながるため、積極的に管理します。

CKD猫では来院前ガバペンチンを少なめにする

CKD猫ではガバペンチンの血中濃度が高くなりやすいため、来院前投薬では減量を考えます。

ガイドラインでは、

最大10 mg/kg程度
通常は25~50 mg/猫で十分なことが多い

としています。

プレガバリンも腎排泄なので減量を考慮します。

CKDだから麻酔を避ける必要はない

CKDがあるという理由だけで、必要な麻酔を避けるべきではありません。

重要なのは腎灌流を維持し、脱水と低血圧を避けることです。

麻酔中はMAP(Mean Arterial Pressure:平均動脈圧)70 mmHg以上を目標とします。

また麻酔当日は、低血圧を避ける目的でACE阻害薬やARBの休薬を検討します。

一方、アムロジピンを止めると高血圧が悪化する可能性があるため、こちらは個別判断です。

つまり「降圧薬を全部止める」ではありません。

CKDは数字を治療する病気ではない

このガイドライン全体を通して感じるのは、CKD管理の目的はクレアチニンを下げることではない、ということです。

早く見つける。
進行しているかを見る。
リン、蛋白尿、血圧を管理する。
体重と筋肉を維持する。
悪心、脱水、便秘、貧血、痛みを治療する。
そして、猫と飼い主さんが続けられる治療を選ぶ。

特に進行したCKDでは、病気の進行を抑える治療よりも、「食べられる」「吐かない」「苦しくない」といったQOLを優先するという考え方が印象に残りました。

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