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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
脾臓の血管肉腫は、犬の腫瘍の中でも進行が早く、緊急対応が必要になることも多い疾患です。
この記事では、
・どれくらい危険な病気なのか
・どのくらい生きられるのか(寿命の目安)
・どんな治療があるのか
を解説します。
脾臓腫瘍の「2/3ルール」とは
脾臓に「しこり(腫瘤)」が見つかった場合、診断の初期段階で参考にする有名な指標があります。
それが「2/3ルール」です。
・脾臓の腫瘤の約2/3は悪性腫瘍
・その悪性腫瘍の約2/3が血管肉腫
つまり、脾臓に腫瘍がある場合、一定の確率で「進行の早い悪性腫瘍」を前提に判断する必要があります。
※ただし、血腫や良性腫瘍(血管腫など)の可能性もあるため、最終診断は摘出後の病理検査が必須です。
なぜ血管肉腫は「サイレントキラー」なのか
血管肉腫は、血管の内側の細胞から発生する腫瘍です。その特徴は「気づきにくく、突然悪化すること」です。
■ 突然の破裂と腹腔内出血
腫瘍は非常にもろく、ある日突然破裂します。その結果、腹腔内で大量出血が起こり、
・元気消失
・ぐったりする
・粘膜が白くなる
といったショック状態で来院するケースが少なくありません。
■ 診断時にはすでに転移していることが多い
血管肉腫は転移しやすく、
・肝臓
・肺
・心臓(右心房)
などに、診断時点で微小転移があることも珍しくありません。そのため、手術だけでの完治は非常に難しい腫瘍です。
治療と寿命の目安(生存期間)
文献ベースのデータから、生存期間の目安を示します。
■ 手術(脾臓摘出)のみ
・生存期間中央値:約3ヶ月
・1年生存率:10%未満
■ 手術+抗がん剤治療
・生存期間中央値:約6~9ヶ月
・1年生存率:約20~30%
抗がん剤を組み合わせることで、一緒に過ごせる時間が2~3倍程度延びる可能性があります。ただし、副作用や通院負担も含めて、その子とご家族に合った選択が重要です。
緊急時に起こる腹腔内出血への対応
血管肉腫では、腹腔内出血が問題になることがあります。経験的には、腹部を圧迫して腹圧を上げることで出血が一時的に落ち着く場合があります。
実際の臨床では、
・伸縮しないテープで腹部を軽く圧迫する
といった対応を行うこともあります。
※ただしこれはあくまで応急的な対応であり、根本的な治療ではありません。速やかな受診が最優先です。
治療費の目安
施設によって差はありますが、一般的には以下の通りです。
・脾臓摘出手術:20~40万円前後
・抗がん剤治療:1回あたり1~3万円程度(複数回)
合計で数十万円規模になることが多いため、事前にしっかり相談することが重要です。
獣医師からご家族へ伝えたいこと
血管肉腫は、確かに厳しい病気です。しかし、重要なのは「どれだけ長く生きるか」だけではありません。
・苦痛をできるだけ減らす
・穏やかな時間を守る
・ご家族と過ごす時間の質を大切にする
そのために、
・積極的治療(手術+抗がん剤)
・緩和ケア中心の選択
どちらも「正しい選択」です。
私たちは、エビデンスに基づいた医療を大切にしながら、その子とご家族にとっての最善の選択を一緒に考えていきます。
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