犬猫の細菌性尿路感染症について、膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎、無症候性細菌尿などの診断と治療をまとめたガイドラインです。
全体を通して印象的なのは、「尿から菌が出たから抗菌薬」ではなく、本当に治療が必要な感染症なのかを考え、抗菌薬を必要最小限に使うという姿勢です。
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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
1回の膀胱炎でも「なぜ感染したか」は考える
散発性の細菌性膀胱炎では、1回感染しただけで大がかりな検査を行う必要はありません。
ただし、糖尿病、腎疾患、尿石症、前立腺疾患、尿失禁、尿路の構造異常など、感染を起こしやすくする背景がないかは考えます。
単に「膀胱炎だから抗菌薬」で終わらせず、「なぜこの子は感染したのか」を一度考える、という姿勢が大切です。
膀胱炎では、まず痛みを取って待つ選択肢もある
膀胱炎の症状は、細菌そのものだけではなく、膀胱の炎症によって起こります。
人では単純性膀胱炎に対して、鎮痛薬だけでも抗菌薬と同程度に症状が改善する可能性が報告されています。
そのため犬猫でも、まずNSAIDsなどで痛みや炎症を抑え、3~4日しても症状が続く、あるいは悪化する場合に抗菌薬を追加する、という方法も選択肢になります。
特に猫では、下部尿路症状の原因として細菌感染が少ないため、尿培養の結果を待ってから抗菌薬を開始することもできます。
フルオロキノロンや第3世代セフェムは温存する
散発性細菌性膀胱炎では、アモキシシリンなどの比較的狭域な抗菌薬が第一選択になります。
フルオロキノロンや第3世代セフェムなどの広域抗菌薬は、培養・感受性試験の結果から必要と判断された場合などに温存します。
「1日1回だから便利」「注射1回で済むから」という理由だけで広域抗菌薬を選ばない、という考え方です。
必要だから使うのか、便利だから使うのかを区別することが重要です。
前立腺炎では「薬が届くか」が重要
細菌性前立腺炎では、blood-prostate barrier(血液−前立腺関門)が抗菌薬治療のポイントになります。
培養・感受性試験で「感受性あり」と判定されても、その抗菌薬が前立腺組織まで十分に到達しなければ治療効果は期待できません。
つまり、前立腺炎では「その菌に効く薬」だけではなく、「その菌に効いて、前立腺まで届く薬」を選ぶ必要があります。
膀胱炎では尿中濃度が重要ですが、前立腺炎や腎盂腎炎では組織への移行性も重要になる、という違いが印象的でした。
麻痺犬では、膀胱炎の症状が分かりにくい
脊髄損傷などで麻痺している犬では、頻尿、排尿痛、しぶりといった通常の膀胱炎症状を評価できないことがあります。
このような犬で尿培養が陽性になったとしても、それだけで抗菌薬を開始するわけではありません。
発熱などの全身症が出た場合には感染症としての治療を考えますが、尿が臭う、濁っている、培養で菌が出た、といった所見だけでは治療の根拠として十分ではありません。
「菌がいるか」ではなく、「その菌が病気を起こしているか」を考えることが大切です。
「菌を治療する」のではなく「感染症を治療する」
このガイドラインを通して一番印象に残ったのは、培養陽性という検査結果そのものを治療しない、という考え方です。
散発性膀胱炎では短期間の抗菌薬治療を選び、無症候性細菌尿では原則として治療しません。広域抗菌薬も必要な症例に温存します。
尿路感染症では、「菌が見つかったから抗菌薬」ではなく、「本当に細菌感染症として治療する必要があるのか」を一度考えることが、抗菌薬適正使用の基本なのだと思います。
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