▼ 現在地:ガイドラインを読む > 本記事
執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
膿性鼻汁があっても、すぐ抗菌薬ではない
猫の急性上部気道疾患では、粘膿性・膿性鼻汁があって細菌感染を疑っても、すぐに抗菌薬を開始するのではなく、まず経過観察することが推奨されています。鼻汁の一般細菌培養・薬剤感受性試験も、急性例では基本的に勧められていません。
抗菌薬がなかった時代の診療に戻ったようにも感じます。
抗菌薬もステロイドも「症状があるから使う特効薬」ではなく、本当に必要な症例を選んで使う、ということなのでしょう。
細菌性上部気道感染症として治療する場合の第一選択は、ドキシサイクリンです。
重症肺炎では話がまったく違う
一方、重症肺炎や敗血症が疑われる場合には、抗菌薬を控える話ではありません。
Gram-negative(グラム陰性菌)をカバーするフルオロキノロン系に、グラム陽性菌や嫌気性菌をカバーするペニシリン系、あるいはクリンダマイシンなどを組み合わせ、注射薬で治療を開始します。
つまりこのガイドラインは、単純に「抗菌薬を減らしましょう」という内容ではなく、
軽症では慎重に使い、重症では躊躇せず使う
というメリハリがはっきりしています。
「どこでも2週間効く注射」は要注意
長時間作用型の抗菌薬は投薬が楽ですが、一度注射すると途中で中止できません。
cefovecin(セフォベシン)は猫の急性上部気道感染症で、ドキシサイクリンやアモキシシリン・クラブラン酸より優れているわけではなく、積極的に推奨できるだけの根拠もありません。
「どこでも2週間効く注射」は便利だからこそ、使う場面を選ぶ必要がありそうです。
10日を超えたら、抗菌薬を変えるより原因検索
上部気道症状が10日を超えて続く場合には、腫瘍、異物、鼻咽頭ポリープ、真菌感染、口鼻瘻など、慢性化する原因を探します。
慢性鼻炎では、抗菌薬によって一時的に症状が改善することはあります。しかし、定期的に経験的抗菌薬を繰り返すことは、できるだけ避けるよう勧められています。
効かなければ「もっと強い抗菌薬」ではなく、
本当に細菌感染なのか?
に戻るということですね。
CIRDCの多くは抗菌薬不要
CIRDC(Canine Infectious Respiratory Disease Complex)、いわゆるケンネルコフの多くはウイルス性と考えられており、抗菌薬はしばしば不要です。
粘膿性鼻汁があっても、元気や食欲が正常なら自然改善する症例があります。抗菌薬を考えるのは、発熱、元気消失、食欲不振などの全身症が加わった場合です。
慢性咳なら胸部X線、細菌性を疑えば気道洗浄
慢性咳では胸部X線検査が基本になります。
細菌性気管支炎を疑うなら、気道洗浄を行い、細胞診、培養、薬剤感受性試験などを組み合わせて判断します。
少量の細菌が培養されたからといって感染とは限らず、好中球性炎症や細胞内細菌などと合わせて評価する必要があります。
若齢犬の肺炎ではBordetellaも重要
1歳未満の犬では、Bordetella bronchisepticaが重要な原因菌になります。
報告では、1歳未満の肺炎犬65頭の49%からBordetella bronchisepticaが検出されています。
誤嚥性肺炎でも、必ず抗菌薬ではない
誤嚥性肺炎でも、すべてが細菌感染とは限りません。
誤嚥直後はchemical pneumonitis(化学性肺炎)が主体の場合があり、敗血症の証拠がなければ、抗菌薬を使わず経過を見ることも選択肢とされています。
「誤嚥したから、とりあえず抗菌薬」という考え方にも一度立ち止まる必要があります。
抗菌薬を使わないメリットは見えにくい
このガイドラインを通して、いろいろな場面で抗菌薬の多用を戒めている印象があります。
ただ、目の前の1頭だけを考えると、「抗菌薬を使わないメリット」はそれほど分かりやすくありません。
数日余計に抗菌薬を使ったからといって、その犬猫に必ず問題が起こるわけでもありません。一方でガイドラインでは、耐性菌を作らないこと、広域抗菌薬を温存することが重視されています。
抗菌薬耐性というと、個人的には伴侶動物よりも家畜での大量使用の方がずっと大きな問題なのでは、とも感じます。
それでも、このガイドラインが伝えたいのは「抗菌薬を使わないこと」そのものではなさそうです。
細菌感染ではない病気には使わない。
本当に必要なら、適切な薬をしっかり使う。
重症感染症なら治療を遅らせない。
抗菌薬という特効薬があるからこそ、もう一度「診断してから治療する」という基本に戻ろう、というガイドラインなのだと思います。
▼ ガイドラインを読む に戻る
