AAHA Senior Care Guidelines for Dogs and Cats 2023を読んで

高齢犬猫の診療についてまとめたガイドラインです。

読んでいて一番感じたのは、「年だから仕方ない」で終わらせないという姿勢でした。

高齢だから病気になるのは仕方ない、麻酔は危ない、動けなくなるのも仕方ない、というのではなく、できることを探してQOLを保つ。そのための具体策がかなり多く書かれています。

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

犬のシニア期は「予測寿命の残り25%」

犬では、予測される寿命の最後の25%をシニア期と考えます。

たとえば寿命12歳くらいの犬なら9歳頃から、16歳くらいなら12歳頃からです。猫では10歳を超えるとシニアと考えます。

単純に「7歳からシニア」という分け方ではなく、犬種や体格によって変わるという考え方ですね。

高齢動物の麻酔前には心臓と腎臓も評価する

麻酔については、高齢であること自体は全身麻酔の禁忌ではないとされています。必要なら複数回の麻酔も可能です。

個人的にありがたかったのが、麻酔前評価で心臓について具体的に触れていることでした。

これまでは循環器科で心エコーをして「大丈夫」と言われれば安心していましたが、本当にそれだけでいいのかな、と少し疑問に思っていました。

このガイドラインでは、麻酔前の検査で特に、

腎機能:クレアチニン
心機能:NT-proBNP

に注目するよう書かれています。必要に応じてX線や超音波検査も追加します。

心エコーだけを見るのではなく、全身状態を評価するということですね。

シニア健診ではT4、血圧、NT-proBNPも

シニア犬猫の定期検査として、CBC、血液生化学、尿検査は6~12か月ごと。

さらに、

T4:年1回
血圧:年1回
NT-proBNP:年1回、麻酔前には特に考慮

とされています。

これまでの「血液検査と尿検査」に、T4、血圧、NT-proBNPまで加えるというのは印象的でした。

高齢小型犬では下顎骨骨折にも注意

小型犬では高齢になるほど歯周病が増え、歯槽骨が失われます。

その結果、病的な下顎骨骨折が起こることがあります。

他の診療科で、このような骨折を見たことがあります。

歯科処置が長時間になる場合には、無理に一度ですべて行わず、麻酔時間を短くするために処置を分割することも勧められています。

認知機能障害は「夜鳴きや痴呆」だけではない

認知機能障害というと、夜鳴きや徘徊、いわゆる痴呆症状を想像していました。

犬の認知機能障害では、有名な覚え方にDISHAAがあります。

D:Disorientation
見当識障害

I:social Interactions
人や動物との関係の変化

S:Sleep-wake cycles
睡眠・覚醒リズムの変化

H:House training
トイレの失敗、これまで学習していた行動の喪失

A:Activity
活動性の変化

A:Anxiety
不安

です。

さらに近年の研究では、

視覚障害
嗅覚の異常
震え
転倒

などもCCDとの関連が報告されています。

うちの犬も、耳が遠くなったり、以前ほど山を歩きたがらなくなったりと、少しずつ変化が見られます。

単なる老化なのか、痛みなのか、認知機能の変化なのか。そのあたりも意識して見てあげたほうがよさそうです。

セレギリンは犬CCDの治療薬

ガイドラインでは、セレギリンが犬CCDの承認薬として紹介されています。

ただし、これは米国での話で、日本では犬CCDの承認薬ではありません。

認知機能障害は早い段階ほど治療効果が期待できるため、「かなりボケてから」ではなく、少しずつ出てくる変化を早めに見つけることが大切そうです。

終末期では「好きなものを食べる」ことにも価値がある

緩和ケアの項目で印象的だったのが、食欲が落ちた終末期では、完全な栄養バランスにこだわるよりも、まず食べてもらうことを優先する場合があるという考え方です。

医学的に完全な食事でなくても、好きだった食べ物を再び与えることが、動物と飼い主の双方にとってよい経験になることがあります。

具合が悪くなったときの対応を先に決めておく

緩和ケアやホスピスでは、日常の管理だけでなく、crisis plan(急変時の計画)を作っておくことが勧められています。

たとえば、

普段はどう管理するか。
呼吸が苦しくなったらどうするか。
食べられなくなったらどうするか。
夜間に悪化したらどうするか。

こうしたことを、元気が残っているうちに家族と相談しておくわけです。

急変してから初めて考えるより、ずっと落ち着いて判断できそうです。

「シニアケアキット」という考え方

子犬や子猫にはスターターキットを渡す病院がありますが、このガイドラインではSenior Care Kitという考え方が紹介されています。

内容は、慢性疾患、疼痛、認知機能障害、薬の飲ませ方、栄養、QOL評価、腫瘤マップ、自宅の滑り止めやスロープなど、かなり幅広いものです。

高齢動物を飼っているご家族に、必要な情報をまとめて渡すという発想はいいですね。

誕生日には動画を撮っておく

高齢動物では、毎日見ていると少しずつ進む変化には意外と気づきにくいものです。

ガイドラインでは、一定の間隔で写真や動画を撮り、体型、歩き方、楽しんでいる活動、行動の変化などを比較することを勧めています。

毎月となると少し大変なので、まずは誕生日ごとに、

食事をしているところ
歩いているところ
立ち上がるところ
散歩しているところ

などを動画で残しておくのもよさそうです。

1年前の動画と比べるだけでも、「少し痩せた」「歩き方が変わった」「立ち上がるのに時間がかかるようになった」といった変化に気づけるかもしれません。

長い説明は、少数の目標にまとめる

高齢動物では病気も薬も増え、説明することが多くなります。

そのようなときには、情報をいくつかの目標にまとめると、飼い主さんが理解しやすくなります。

ガイドラインでは、

痛みを減らす
動けるようにする
適正体重にする
また一緒に散歩を楽しめるようにする

という4つの目標にまとめた例が紹介されています。

4つである必要はありません。

「今日の目標は3つです」といった具合に、長い説明を少数の目的にまとめることが重要なのだと思います。

「年だから仕方ない」で終わらせない

このガイドラインを通して一番印象に残ったのは、やはりここです。

高齢だから動けなくなる。
高齢だから食べなくなる。
高齢だから夜鳴きする。
高齢だから麻酔はできない。

そう決めつけるのではなく、痛み、心臓病、腎臓病、認知機能障害など、治療できる原因がないかを探す。

そして治せない病気になったとしても、QOLを保つためにできることはまだある。

シニア期は、医療を減らしていく時期というより、その子に合わせて医療の目的を変えていく時期なのだと思いました。

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