脾臓は、お腹の中にある細長い臓器です。古くなった赤血球の処理、血液の貯蔵、免疫に関わる働きをしています。
猫の脾臓にしこりや腫れが見つかった場合、それがすべて悪性腫瘍とは限りません。血腫、結節性過形成、炎症、感染症、免疫反応による脾臓腫大など、良性または非腫瘍性の病変もあります。
一方で、悪性腫瘍としては、肥満細胞腫、リンパ腫、まれに血管肉腫などが問題になります。
犬では「脾臓のしこり=血管肉腫の可能性」を強く考えますが、猫では同じ考え方をそのまま当てはめることはできません。猫では肥満細胞腫やリンパ腫が重要な鑑別になります。
執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
健康診断で偶然見つかることがあります
猫の脾臓腫瘍は、初期には目立った症状がないことがあります。
健康診断の腹部エコー検査で、脾臓が大きい、しこりがある、内部の見え方が不均一、といった所見から偶然見つかることがあります。
症状が出る場合は、食欲低下、体重減少、元気消失、嘔吐、下痢、お腹の張り、貧血、ふらつきなどが見られます。脾臓の病気だけで特有の症状が出るわけではないため、血液検査や画像検査を組み合わせて判断します。
急にぐったりする、歯ぐきが白い、お腹が張っている、呼吸が荒い場合は、腹腔内出血などの緊急状態も考える必要があります。
猫で重要な脾臓肥満細胞腫
猫の脾臓腫瘍で特に重要なのが、脾臓肥満細胞腫です。
肥満細胞は、ヒスタミンなどの生理活性物質を含む細胞です。腫瘍化すると、脾臓が大きく腫れたり、血液中に腫瘍細胞が出てきたりすることがあります。
肥満細胞腫では、腫瘍そのものの大きさだけでなく、ヒスタミンなどの物質によって症状が起こることがあります。食欲不振、嘔吐、黒色便、体重減少などは、胃酸の増加や胃腸障害と関係していることがあります。
猫の脾臓肥満細胞腫では、脾臓摘出によって症状が大きく改善し、長く過ごせることがあります。血液中に肥満細胞が見られる場合や、肝臓への広がりが疑われる場合でも、脾臓を取ることで体調が改善することがあります。
リンパ腫や感染症との鑑別も大切です
脾臓が大きくなる病気には、リンパ腫もあります。
リンパ腫は全身性の病気として脾臓に広がることもあれば、脾臓を中心に病変が見つかることもあります。低悪性度のリンパ腫では進行がゆっくりで、脾臓摘出が治療や診断に役立つ場合があります。一方で、高悪性度リンパ腫では抗がん剤治療が中心になります。
また、若い猫や発熱、腹水、黄疸、体重減少を伴う猫では、FIP、FeLV、ヘモプラズマ感染症なども鑑別に入ります。脾臓が大きいからといって、すぐに腫瘍と決めつけないことが大切です。
検査で何を確認するか
脾臓の異常が見つかった場合、まず血液検査で貧血、白血球や血小板の異常、炎症、肝臓や腎臓の状態を確認します。
腹部エコー検査では、脾臓が全体に大きいのか、しこりがあるのか、出血や腹水があるのか、肝臓やリンパ節に異常がないかを確認します。胸部レントゲンやCT検査で、ほかの臓器への広がりを調べることもあります。
肥満細胞腫が疑われる場合は、血液塗抹、特にバフィーコートと呼ばれる白血球層の確認が役立つことがあります。血液中に肥満細胞が見つかると、脾臓肥満細胞腫を強く疑う材料になります。
脾臓に針を刺して細胞を取る検査は、診断に役立つこともありますが、出血のリスクがあります。腫瘍の種類や脾臓の状態によっては、無理に穿刺せず、脾臓摘出と病理検査で診断することもあります。
治療は病気の種類で変わります
脾臓に限局した病変で、全身状態が手術に耐えられる場合は、脾臓摘出が治療と診断を兼ねた選択肢になります。
良性病変であれば、摘出によって根治が期待できます。脾臓肥満細胞腫でも、脾臓摘出によって嘔吐や食欲不振が改善し、長期生存につながることがあります。
リンパ腫では、病型によって手術、抗がん剤、ステロイドなどを組み合わせます。血管肉腫は猫ではまれですが、破裂や転移のリスクが高く、予後は厳しくなります。
手術後に悪性腫瘍と診断された場合は、抗がん剤や分子標的薬を検討することがあります。ただし、薬の効果や副作用は腫瘍の種類によって異なります。食欲不振、下痢、嘔吐、腎臓への影響、骨髄抑制などを確認しながら慎重に使います。
脾臓を取っても生活できます
「脾臓を全部取って大丈夫ですか」と心配されることがあります。
脾臓は大切な臓器ですが、摘出後は肝臓、骨髄、リンパ節などが働きを補います。そのため、多くの猫は脾臓を摘出しても日常生活を送ることができます。
ただし、術後は出血、貧血、不整脈、膵炎、感染、食欲低下などに注意が必要です。退院後も、元気、食欲、歯ぐきの色、お腹の張り、呼吸の様子をよく観察します。
まとめ
猫の脾臓にしこりや腫大が見つかっても、すべてが血管肉腫とは限りません。猫では、肥満細胞腫、リンパ腫、良性病変、感染症などを広く考える必要があります。
特に脾臓肥満細胞腫では、脾臓摘出によって症状が改善し、長く過ごせることがあります。反対に、リンパ腫や感染症では、手術ではなく内科治療が中心になることもあります。
大切なのは、画像だけで決めつけず、血液検査、エコー検査、必要に応じた細胞診や病理検査を組み合わせて、その猫に合った治療方針を考えることです。
脾臓の腫瘍は、怖い病気のこともありますが、早く見つけて適切に判断できれば、治療によって生活の質を保てる場合もあります。