猫の慢性腸症では、LPE(Lymphoplasmacytic Enteritis:リンパ球形質細胞性腸炎とLGITL(Low-Grade Intestinal T-cell Lymphoma:低悪性度腸管T細胞リンパ腫)の鑑別が問題になります。
このコンセンサスで印象的なのは、単に「両者をどう見分けるか」ではなく、
「そもそも炎症性腸症と低悪性度リンパ腫は、現在の検査で本当に明確に二分できるのか?」
というところまで踏み込んでいる点です。
現時点では、病理検査を含めてもLPEとLGITLを確実に区別できる単独の診断基準やバイオマーカーはありません。臨床症状、血液検査、画像診断、組織病理、免疫組織化学、クローナリティ検査などを総合して判断します。
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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
LPEとLGITLは連続体なのかもしれない
LPEとLGITLは完全に別々の疾患ではなく、連続体である可能性が示されています。
LGITLの猫では炎症性病変を同時に認めることが多く、同じ、あるいは別の消化管部位に炎症が併存する割合は最大60%と報告されています。また、LGITLではLPEより臨床症状が長く続いている傾向があります。
ただし、「LPEが時間とともにLGITLへ進展する」と証明されたわけではありません。同じ猫を長期間追跡して、LPEからLGITLへの進展率を示した研究は乏しく、両者の関係を明らかにするには縦断研究が必要とされています。
猫の慢性腸症では、下痢がなくても安心できない
犬と違い、猫の慢性腸症では下痢が主症状とは限りません。
体重減少、嘔吐、食欲低下、元気低下などがみられ、LGITLでも症状が軽い、あるいはほとんど症状がない猫もいます。
そのため、
「下痢がないから重い腸疾患ではない」
とは言えません。
最も多い臨床症状は体重減少ですが、これも飼い主だけでなく獣医師にも見逃されることがあります。腹部の脂肪は残っているのに、背部筋肉が減少している猫もいるため、体重だけでなく筋肉量の評価も重要です。
つまり、体調が悪くても原因を特定できないこともある、という証左でもあります。
超音波だけではLPEとLGITLを区別できない
腹部超音波は、腸管壁の肥厚、腸間膜リンパ節、肝臓、胆道、膵臓などを同時に評価できるため重要な検査です。
ただし、LPEとLGITLの超音波所見にはかなり重なりがあります。
筋層や粘膜が厚いからLGITLとは限りませんし、超音波が正常でも臨床的に重要な腸疾患は否定できません。
一方、明らかな大きな腫瘤や著しいリンパ節腫大がある場合には、LGITLというより高悪性度リンパ腫や他の腫瘍などを考える必要があります。
確定診断の中心は腸生検
現在、LPEとLGITLの鑑別の中心となるのは腸管生検による組織病理検査です。
ただし、
「外科的全層生検なら確実で、内視鏡生検では不十分」
という単純な話ではありません。
内視鏡生検でも、十分な数と質の粘膜検体が得られれば診断可能です。
内視鏡の利点は、粘膜を直接見ながら異常部位から多数の検体を採取できることです。一方、弱点は空腸、特に中部から遠位空腸を採取しにくいことです。LGITLでは空腸がよく病変部位となるため、この点は無視できません。
外科生検の最大の強みは、空腸を含めて任意の部位から全層生検できることです。肝臓や膵臓など他臓器も同時に生検できます。
しかし外科生検でも、採取数が少なかったり、肝心の粘膜が欠けたりすれば診断精度は落ちます。
つまり重要なのは、
「内視鏡か外科か」
以上に、
「適切な部位から、十分な数と質の検体を採取できているか」
ということです。
PARR陽性だけでリンパ腫とは言えない
PARR(PCR for Antigen Receptor Rearrangement:抗原受容体遺伝子再構成PCR)はclonalityを調べる検査ですが、clonalだから悪性腫瘍とは限りません。
慢性的な抗原刺激でも特定のリンパ球クローンが増殖することがあります。
そのため、
病理ではLPE
PARRではclonal
だから、
「LGITLに診断変更」
という使い方は推奨されません。
病理、免疫組織化学、PARR、臨床情報を合わせて判断する必要があります。
このコンセンサスを一言でまとめると、
LPEとLGITLは「炎症か腫瘍か」と簡単に二分できる病態ではなく、現在の検査をすべて使っても曖昧な症例が残る。
ということなのだと思います。
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