犬の急性下痢は、日常診療で非常によく遭遇する疾患です。このガイドラインでは、抗菌薬だけでなく、プロバイオティクスについてもエビデンスを評価しています。
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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
軽症・中等症の急性下痢では、基本的に抗菌薬を使わない
全身状態が良好で、脱水や全身性疾患の徴候がない軽症例では、血便の有無にかかわらず抗菌薬を使用しないことを強く推奨しています。
さらに、脱水や循環血液量減少があり、多少元気が低下している中等症でも、十分な輸液によって全身状態が改善するのであれば、基本的には抗菌薬を使用しません。これも血便の有無を問いません。
昔は、
「AHDS(Acute Hemorrhagic Diarrhea Syndrome:急性出血性下痢症候群)で血便がひどい」
→「腸管バリアが壊れているので抗菌薬」
と考えがちでした。
しかし、このガイドラインでは、血便そのものよりも全身状態を重視します。
高度好中球増多、好中球減少、degenerative left shift(変性左方移動)など、強い、あるいは圧倒的な炎症を示す血液検査異常がある場合は例外として考えます。
輸液しても全身状態が悪いなら抗菌薬
重症例では考え方が変わります。
十分な輸液を行っても全身性疾患の徴候が残る犬、あるいはショック、敗血症、bacterial translocation(細菌移行)などが疑われる犬では、全身性抗菌薬の投与を検討します。
つまり、
「血便だから抗菌薬」
ではなく、
「輸液しても全身状態が改善しない、敗血症が疑われるから抗菌薬」
という考え方です。
プロバイオティクスは「推奨も否定もしない」
プロバイオティクスについては、ガイドラインは使用を推奨も否定もしていません。
4つのランダム化比較試験、149頭をまとめると、プロバイオティクスによって下痢期間は平均0.68日、約16時間短縮していました。また、一部の研究では腸内細菌叢が健康犬に近づく変化も認められています。
一方、このガイドラインでは「1日以上の短縮」を臨床的に意味のある効果と事前に設定していたため、約16時間の短縮はclinically relevantとは判定されませんでした。
ただ、プロバイオティクスは比較的安全であり、腸内細菌叢を改善する可能性もあります。集学的治療として考えれば、16時間という効果を必ずしも無視する必要はないように感じます。
軽症なら血液検査をしない選択も
軽症の急性下痢では、多くが自然軽快するため、routineにCBC(Complete Blood Count:全血球計算)や生化学検査を行う必要はないとしています。
一方、中等症・重症ではCBCと生化学検査を行い、高度好中球増多、好中球減少、変性左方移動、低血糖、高ビリルビン血症など、全身性炎症や敗血症を疑う所見を確認します。
Addison病を忘れない
急性下痢でも、元気消失、脱力、虚脱がある、下痢を繰り返す、あるいは血液検査で副腎皮質機能低下症を疑う異常がある場合には、Addison病を鑑別に入れます。
atypical Addisonでは電解質異常がないこともあります。
まず、コルチゾールを測定し、2 µg/dLを超えていれば副腎皮質機能低下症はほぼ除外できます。低値であればACTH刺激試験へ進みます。
このガイドラインの大きなメッセージは、
「血便だから抗菌薬」ではなく、「全身状態を見て抗菌薬が本当に必要かを判断する」
ということだと思います。
一方で、抗菌薬適正使用を強く意識したガイドラインであり、「1日未満の改善は臨床的に意味がない」とする閾値の置き方については、少し批判的に読んでもよさそうです。
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