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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
猫は犬より動物病院に来ていない
このガイドラインでまず印象的なのは、猫は犬に比べて動物病院を受診する機会が少ない、という問題です。
飼い主が猫を家族と思っていても、「猫はあまり医療を必要としない」と考えられやすく、猫自身も病気や疼痛の徴候を隠しやすいため、受診が遅れることがあります。
そこでこのガイドラインでは、猫の一生をKitten(子猫)、Young adult(若齢成猫)、Mature adult(成熟成猫)、Senior(シニア)、そして年齢とは独立したEnd of life(終末期)に分けています。
目的は単に年齢を分類することではありません。
「毎年ワクチンを打ちましょう」という従来型の健康診断から、
年齢とリスクに応じて、その年に何を聞き、何を診て、何を検査するか
という、生涯にわたる個別化された健康管理へ変えていく考え方です。
年齢によって健診の重点を変える
ライフステージによって、重点的に見るものが変わります。
子猫では先天性・遺伝性疾患や感染症、社会化。
Young adultでは肥満予防や口腔疾患、呼吸器疾患。
Mature adult~Seniorでは腎疾患、甲状腺機能亢進症、糖尿病、腫瘍、筋骨格系疾患、疼痛、体重・筋肉量の減少、認知機能などを意識します。
つまり、
子猫 → 先天性疾患と社会化
Young adult → 肥満予防
Mature adult~Senior → 腎疾患などの早期発見
と診察の目的そのものが変わっていきます。
一方、口腔については全年齢で重要です。
詳細な口腔診察を行い、歯周病や歯牙吸収病変を早期に見つけ、ホームケアについても飼い主に説明します。
Feline-friendly handlingは予防医療の一部
このガイドラインではfeline-friendly handling(猫に配慮したハンドリング)が繰り返し強調されています。
猫が病院を嫌いになれば、次回の受診そのものが難しくなります。
そのため診察時には、
気質
その時の様子
扱われ方の好み
を評価します。
例えば、
タオルに包むと落ち着くか
好きなおやつは何か
以前うまくいった保定方法は何か
逆に何を嫌がったか
などを確認し、カルテに記録して次回に生かします。
また、
歯科診察
体温測定
爪切り
採血・採材
画像検査
など、猫にとって侵襲的・不快になりやすいことは、できるだけ診察の最後に回します。
子猫の診察は「病院を好きにする機会」
子猫は食べ物を受け入れやすいため、診察中におやつやフードを積極的に使います。
さらに重要なのは、
「大人になって必要になることを、子猫のうちに練習しておく」
という考え方です。
正の強化を使えば、
呼ぶと来る
キャリーに入る
マットに乗る
ブラッシング
爪切り
点耳
スポットタイプの寄生虫薬
経口投薬
皮下投薬
などを受け入れるようトレーニングできます。
ほとんどの猫はいずれ何らかの投薬が必要になるため、健康なうちから慣らしておくという発想です。
普段の行動を写真や動画で残しておくことも勧めています。
将来、「ジャンプしなくなった」「遊ばなくなった」といった小さな変化を客観的に比較できます。
また、猫本来の捕食行動を生かし、家の中に少量のフードを隠したり、フードパズルを利用したりすることも環境エンリッチメントとして勧められています。
子猫ではFeLVもcore vaccine
ワクチンはライフステージと曝露リスクに応じて考えます。
この2021年ガイドラインでは、FPV、FHV-1、FCV、狂犬病をcore vaccineとし、FeLVについても年齢による感受性の高さから、子猫・若齢猫ではcoreとして扱っています。
その後は感染猫への曝露リスクに応じて継続接種を判断します。
ワクチンは「何を打つか」だけでなく「どこに打つか」
猫注射部位肉腫は頻度は低いものの実在するため、万一発生した場合に十分な外科切除ができる場所へ注射することが重要です。
推奨される部位は、
前肢:肘より遠位
後肢:膝より遠位
尾:遠位1/3
です。
肩甲間への接種は、肉腫が発生した際に十分な外科マージンを確保しにくいため推奨されません。
また、何をどの部位にどの経路で投与したかをカルテに正確に残すことも強く推奨されています。
このガイドラインを読んで
このガイドラインは「猫に何のワクチンを打つか」という予防医療の話だけではありません。
年齢に応じて病気を探し、猫の行動や生活環境を知り、病院でのストレスを減らし、子猫の頃から将来の診察や投薬に備える。
つまり、
「病気になった猫を診る」のではなく、「その猫が一生、医療を受けやすい状態を作る」
ところまでを予防医療として考えているのが印象的でした。
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