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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
猫同士は必ずしも仲間ではない
多頭飼育では、猫同士が同じ家で暮らしているからといって、必ずしも仲間であるとは限りません。
「1頭ではかわいそうだから、もう1頭飼おう」という発想も、必ずしも猫のためになるとは限りません。家庭内の猫の組み合わせは飼い主が決めたものであり、猫自身が選んだ相手ではないからです。
新しい猫を迎えるときは、まず猫ごとの安全な場所を準備し、徐々に導入します。特に先住猫が高齢で医学的問題を抱えている場合には、一般的には新しい猫を迎えることを勧めていません。
喧嘩だけが猫同士の緊張ではない
猫同士の緊張では、恐怖・不安や痛みが重要です。
問題行動というと、hissing、chasing、striking、physical conflictなどの派手な行動に目が行きますが、このガイドラインがより重視しているのは、
動かない
避ける
隠れる
相手を凝視する
通路を塞ぐ
といった目立ちにくい行動です。
つまり、喧嘩していないから仲が良いとは限りません。
多頭飼育では「離れられる環境」を作る
環境管理では、安全な場所を「猫1頭につき1か所+さらに1か所」用意します。3頭なら最低4か所です。
また、室内飼育猫のペアでは、48~50%の時間を互いが視界に入らない状態で過ごしていたという報告があります。
猫同士を常に一緒にいさせるのではなく、「相手を見なくて済む環境」も重要です。
safe place、食事、水、遊びの機会は、それぞれの猫のcore territoryに配置します。
特に食事や水は、
複数ある
離れている
互いに見えない
各猫の安全な領域にある
この4つが重要です。
遊びは生涯重要
猫同士のsocial playは成長とともに減少しますが、おもちゃ遊びは生涯重要です。
レーザーポインターは、最後に何も捕まえられないためフラストレーションを起こす可能性があり、使用頻度と異常な反復行動との関連も報告されています。
罰は使わない
猫を叱る、怒鳴る、水をかけるといった罰は推奨されません。
猫同士が凝視し合って緊張している場合も、猫を抱き上げて止めるのではなく、クッションや段ボールなどを間に入れて視線を遮ります。
フェロモンは補助療法
猫用合成フェロモンは、猫の気分を改善する可能性があります。
ただし、強い脅威刺激があれば簡単に打ち消されます。
フェロモンだけで猫同士の関係を改善するのではなく、環境調整と組み合わせて使います。
新しい猫の導入や再導入は急がない
一度関係が悪化した猫同士を再導入するときも急いではいけません。
ガイドラインでは、
「再導入でよくある失敗は、ステップを急ぎすぎること」
としています。
重症例では数か月から1年以上かかることもあります。
薬は猫を仲良くさせるためではない
薬物療法としてはfluoxetine、clomipramine、buspirone、gabapentinなどが挙げられていますが、薬だけで治療するものではありません。
薬の目的は、猫を仲良くさせることではなく、不安や恐怖を軽減し、猫が学習しやすい状態を作ることです。
治療のゴールはtolerationでもよい
このガイドラインでいう治療成功は、猫同士が仲良しになることではありません。
良好な関係まで戻らなくても、互いに干渉せず、安心して暮らせるtolerationの状態になれば十分です。
つまりこのガイドラインは、
「猫同士を仲良くさせる治療」ではなく、
「猫同士が安心して共存できる状態を作る治療」
という行動学のガイドラインだと思いました。
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