【多中心型リンパ腫】首のしこりに対する抗がん剤

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

犬のリンパ腫の中で最も多いのが、この「多中心型」です。一箇所に留まらず、全身のリンパ節が腫れていくのが特徴。まさに前回お話しした山火事の飛び火が、目に見える「しこり」となって現れた状態です。

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1. 「痛くないしこり」こそ、すぐ受診を

この病気の厄介なところは、初期には痛みも元気消失もないことが多い点です。
「痛がってないし、食欲もあるから様子を見よう」

この判断が、治療の選択肢を狭めてしまいます。首の付け根、脇の下、股の付け根などに「左右対称のしこり」を見つけたら、一刻も早く獣医師へ相談してください。

2. 治療の切り札「CHOPプロトコール」とは?

全身に広がった敵を叩くには、単一の薬では限界があります。そこで標準治療とされているのが、「CHOP(チョップ)プロトコール」という多剤併用療法です。

4種類の異なる特性を持つ抗がん剤を、パズルのように組み合わせて投与します。

C: シクロホスファミド
H: ドキソルビシン(アドリアマイシン)
O: ビンクリスチン(オンコビン)
P: プレドニゾロン(ステロイド)

なぜ複数を混ぜるのか? それは、ガン細胞に「薬への耐性」をつけさせないためです。波状攻撃を仕掛けることで、敵を逃さず一気に叩き潰します。

3. 目指すは「完治」ではなく「寛解(かんかい)」

ここで大切な考え方があります。リンパ腫治療のゴールは、多くの場合「寛解」です。寛解とは、「検査上、ガンの姿が消えて、病気前と変わらない元気な生活を送れる状態」のこと。

「完治ではないのか」と落胆しないでください。犬や猫にとって、苦痛なく家族と散歩に行き、ご飯をおいしく食べられる時間は、何物にも代えがたい宝物です。

4. 獣医師がつくる「緻密なロードマップ」

抗がん剤治療は、ただ薬を打てばいいわけではありません。

• その子の当日の白血球数は?
• 前回の投与後の体調はどうだったか?
• 副作用を最小限にするための減薬や休止のタイミングは?

これらを毎回の診察で調整する。この「緻密な管理」こそが、副作用を抑えつつ、最長・最良の時間を引き出す獣医師の腕の見せ所です。

5. 知っておいてほしい「薬剤耐性」と終わりのこと

抗がん剤は「分裂の速い細胞」をターゲットにします。そのため、勢いの強い腫瘍によく効く一方で、正常な組織にも影響が出て体調を崩すことがあります。

また、同じ薬を使い続けると、抗生物質と同じようにガン細胞が薬剤耐性を持ち、薬が効かなくなってきます。

治療は「最も効果が高いもの」から順に使っていきます。そのため、最初の薬が効かなくなると、徐々に効果の低いものを選ばざるを得なくなります。

「いつか効かなくなる時が来る」

だからこそ、私たちは「今、一番効く薬」を最高のタイミングで使い、元気な時間を一日でも長く引き延ばすことに全力を注ぐのです。

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