感染管理というと、「感染症の患者が来たら隔離する」「汚れたところを消毒する」というイメージがありました。
しかし、このガイドラインを読んで印象に残ったのは、
「感染が起きたら対応する」のではなく、平時から手順を作り、守り、監視し、改善する
という考え方です。
しかも、誰かが何となく担当するのではなく、感染管理の担当者を決めることまで勧めています。
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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
すべての動物病院に感染管理プログラムを
ガイドラインでは、すべての動物病院が文書化されたICPB(Infection Control, Prevention, and Biosecurity:感染管理・感染予防・バイオセキュリティ)プログラムを持つべきとしています。
手指衛生、清掃・消毒、感染症患者の動線、PPEなどについてSOP(標準作業手順書)を作り、スタッフ教育を行い、実際に守られているかを確認します。
さらに、飼い主向けの感染症・人獣共通感染症の教育資料を整え、surveillance program(サーベイランス・監視体制)を作って、院内感染や耐性菌の発生状況を継続的に見ていきます。
つまり、マニュアルを作って終わりではなく、
作る → 実行する → 監視する → 改善する
という仕組みそのものが感染管理なのですね。
手術部位感染は、抗菌薬だけでは防げない
獣医療の手術部位感染(SSI)について紹介されている研究では、感染原因の多くがMRSP(メチシリン耐性Staphylococcus pseudintermedius)でした。
そのため、セファロスポリンなどのβラクタム系抗菌薬を周術期に使用するだけでは十分ではありません。
環境の清掃・消毒、患者の術前準備、手術手技、PPE、術者の手指衛生、適切な抗菌薬の使用、術後の創管理まで含めて対策する必要があります。
また、術前の手指消毒については、従来のブラシなどを使ったsurgical scrubよりも、アルコール製剤によるsurgical hand rubが勧められる方向になっています。
殺菌力が高く、作用が速く、皮膚へのダメージが少なく、時間も一般に約3分で済むことなどが理由として挙げられています。
学生の頃、ごしごし洗いましたね。真夜中までテストされましたし・・・(そんな実習がありました)。
歯科や心肺蘇生も感染リスクを考える
感染リスクに特に注意する場面として、歯科、心肺蘇生、免疫抑制患者、産科、熱傷、剖検などが挙げられています。
歯科では、スケーリングやドリルによって唾液、血液、細菌を含むエアロゾルが発生します。
心肺蘇生でも、緊急時だからこそPPEや処置後の清掃・消毒が抜けやすいため、定期的なシミュレーション訓練まで勧めています。
免疫抑制患者では、留置尿道カテーテルなど院内感染リスクを高める処置をできるだけ避け、必要な場合には感染対策をより厳密に行います。
白衣やスクラブを家に持ち帰らない
意外に印象に残ったのが洗濯物です。
白衣やスクラブ、タオル、寝具などもfomite(病原体を運ぶ物品)になります。
そのため、「白衣を着たまま帰宅する」「スクラブを自宅に持ち帰って洗濯する」という習慣は、感染管理上は好ましくありません。
ガイドラインでは、スクラブや白衣は院内で洗濯するか、医療用洗濯に対応した専門業者で洗濯することを勧めています。
自分のものは自分で洗濯、と思っていましたから・・・。残念。
感染リスクの高い飼い主には家庭での注意も
感染管理は病院の中だけではありません。
ガイドラインでは、5歳未満、65歳超、妊婦、糖尿病、HIV感染、免疫抑制化学療法中、臓器移植後、自己免疫疾患の治療中などの人では、人獣共通感染症により注意が必要としています。
こうした家庭では、
ペットに触れた後は必ず手を洗う。
顔を舐めさせない。
できれば便の処理は免疫正常な家族が行う。
ケージ、食器、寝具、おもちゃの清掃・消毒も、可能なら免疫の正常な家族が行う。
といった対策を勧めています。
感染管理は「消毒」ではなく病院の仕組み
このガイドラインを読んで、感染管理は単に「消毒をきちんとする」という話ではないのだと感じました。
感染症患者を早く見つける。
動線を分ける。
手順を決める。
スタッフに教育する。
実際に守られているか監視する。
問題があれば改善する。
そして、それを担当する人を決める。
感染が起きてから慌てて対応するのではなく、普段から病院全体で感染を起こしにくい仕組みを作っておくことが、このガイドラインの中心なのだと思います。
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