COAST Development Group’s International Consensus Guidelines for the Treatment of Canine Osteoarthritis (2023)を読んで

犬の変形性関節症(OA:Osteoarthritis)は、現時点では治癒できない進行性疾患です。

そのため治療の目的は、関節を元通りにすることではなく、痛みを減らし、動ける状態を維持し、QOLの低下を防ぐことです。

慢性疼痛が続けば、単に「関節が痛い」だけではありません。中枢性感作、不安、抑うつ様変化、睡眠障害、認知機能への影響まで起こり得るため、早い段階から疼痛を管理することが重要とされています。

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

OAは高齢犬になってから考える病気ではない

このガイドラインでは、COAST(Canine OsteoArthritis Staging Tool:犬の変形性関節症ステージ分類ツール)を使います。

目的は、OAの診断とモニタリングを標準化し、早期発見、飼い主教育、治療反応の評価につなげることです。

特徴的なのがCOASTeRです。

COASTではレントゲン所見も含めて病期を評価しますが、治療方針を決めるCOASTeRではレントゲン所見を除き、実際の痛みや機能を重視します。

つまり、「レントゲンを治療するのではなく、その犬の症状を治療する」という考え方です。

子犬の時点からOA予防を始める

COASTでは、子犬の健康診断やワクチンの時点からOAについて飼い主に説明します。

体重、BCS(Body Condition Score:体格・脂肪の評価)、MCS(Muscle Condition Score:筋肉量の評価)、食事、運動だけでなく、避妊去勢の時期や、予防的手術の適応までOA管理の中に入っています。

成熟した成犬では年1回程度OA徴候をチェックし、シニア犬ではさらに頻度を増やします。シニアの目安は、予測寿命の最後の25%に入った時期です。

また、OA好発犬種、スポーツ犬・作業犬、関節外傷歴のある犬、肥満犬、シニア犬では、より頻繁な評価を行います。

若い股関節形成不全では予防手術という選択もある

Stage 1、つまりまだ症状はないもののOAリスクがある犬では、若齢期の股関節形成不全に対する予防手術も検討されます。

JPS(Juvenile Pubic Symphysiodesis:若齢性恥骨結合固定術)は、5か月齢未満で股関節弛緩がある犬などが対象になります。

恥骨結合の成長を早期に止め、その後の骨盤成長を利用して寛骨臼による大腿骨頭の被覆を改善する手術です。

つまり、OAが進行してから治すのではなく、成長期に将来のOAを減らそうという発想です。

骨盤骨切り術も選択肢として挙げられています。

NSAIDsは「痛いときだけ」ではない

臨床症状が出たStage 2以降では、NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:非ステロイド性抗炎症薬)や抗NGF抗体が治療の中心になります。

印象的なのは、NSAIDsを最初から少量・頓用で使うのではなく、まず十分な治療量を一定期間使って疼痛を抑え、その間に動けるようにして筋力を取り戻すという考え方です。

目安として、Stage 2では約4週間、Stage 3では約8週間、Stage 4では約12週間の初期疼痛管理が想定されています。

十分な機能改善が得られた後にNSAIDsを減らす場合には、1回量を減らすより、投与間隔を延ばす方法を優先することが提案されています。

NSAIDが1種類合わなくても、NSAIDs全部を諦めない

NSAIDで効果が不十分だったり副作用が出たりしても、それだけでNSAIDs全体が無効・不耐容とは判断しません。

適切なwashout period(休薬期間)を設けて、可能なら、

piprant系
coxib系
preferential COX inhibitor

など、前回とは異なるクラスのNSAIDへ変更します。

一方、異なる2種類のNSAIDをそれぞれ使用して副作用が出た場合には、NSAID不耐容と判断して他の鎮痛法へ移行します。

また、NSAIDに胃粘膜保護薬を加えて無理に継続することは推奨していません。

胃粘膜保護薬が必要になること自体が、そのNSAIDを十分に忍容できていない可能性を示す、という考え方です。

重症なら局所治療も積極的に考える

Stage 4で1~2関節だけが特に重症の場合には、関節内治療を重要な選択肢としています。

関節内コルチコステロイド、PRP(Platelet Rich Plasma:多血小板血漿)、ヒアルロン酸などが挙げられています。

つまり全身薬を増やし続けるだけでなく、痛みの強い関節が限定されているなら局所治療を考えるという発想です。

このガイドラインは「早期介入」が一番のメッセージ

読み終えて最も印象に残るのは、犬のOAを「高齢になって跛行したら痛み止めを出す病気」として扱っていないことです。

子犬のころからリスクを評価し、適正体重と筋肉を維持し、適切に運動させ、関節疾患を早期発見する。
症状が出たら十分に痛みを取り、動ける状態を維持しながら治療を段階的に積み上げる。
OAは早く見つけて、早く介入し、長く管理する。

そんなイメージのガイドラインだと思います。

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