下痢をすると、「腸が動きすぎたのかな」「お腹が疲れたのかな」と考えがちです。しかし、便ができるまでには、消化、吸収、分泌、腸管運動など多くの働きが関わっています。正常な便がどのように作られるかを知ると、なぜ下痢になるのかが見えやすくなります。
執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
食べたものが便になるまで
食べたものは、まず胃で胃酸やペプシンの働きを受けます。十二指腸へ進むと、膵液に含まれる消化酵素が栄養素をさらに細かく分解し、重炭酸が胃酸を中和します。胆汁は脂肪の消化・吸収を助けます。
小腸では、分解された栄養素とともに水分や電解質が吸収されます。続く大腸でも水分と電解質が回収され、腸内細菌による発酵などを経て、少しずつ形のある便になります。
つまり、便を作るとは、食べ物を固めるというより、消化管の中にある大量の水を回収する作業ともいえます。
生理学的なモデルでは、健康な20kgの犬の小腸には、飲食した水分600mLと、唾液、胃液、胆汁、膵液、腸液などを合わせて、1日に約2.7Lの液体が流れ込みます。そのうち約1.35Lが空腸、約1.0Lが回腸、約315mLが大腸で吸収され、便に残る水分は約35mLです。
→ 犬の消化管は飲食した水分の何倍を分泌する?
実際の量は体格や食事などで変わりますが、腸が毎日大量の水分を再吸収していることが分かります。
どこが崩れると下痢になる?
下痢が起こる仕組みは一つではありません。
- 消化・吸収されない栄養素が腸内に残り、水を引き込む「浸透圧性下痢」
- 腸粘膜から水分や電解質が過剰に分泌される「分泌性下痢」
- 腸炎などで粘膜が傷み、水分を十分に吸収できなくなる下痢
- 強い炎症によって、粘液、血液、たんぱく質などが腸内へ漏れ出す「炎症性下痢」
- 内容物が速く通過し、水分を回収する時間が足りなくなる下痢
実際には、これらが複数重なっていることもあります。
下痢は単に「軟らかい便」ではなく、腸における水分の吸収と分泌のバランスが崩れた状態です。水っぽい便を固めることと、その原因が治ることは同じではありません。
次の記事では、犬の急性下痢をどのような目的で治療するのかを考えます。
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