友人の犬が下痢しやすいと聞いて、大学院試験で受験生が便移植をテーマにしたいと言っていたのを思い出しました。
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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
便移植は、思っていたより簡単
便移植(FMT)というと、特殊な設備が必要な治療を想像していました。しかし、このガイドラインを読むと、手技そのものは意外に単純です。
新鮮な便を滅菌生理食塩水などで1:1~1:5程度に希釈し、茶漉しのような細かい網で濾過して、直腸から注入します。嫌気条件で調製する必要もなく、通常の動物病院でも十分実施できそうです。
注腸では通常、鎮静も必要ありません。できれば前もって排便させておきますが、腸洗浄も必須ではありません。
「便移植は簡単?」と聞かれれば、手技については「かなり簡単」と答えてよさそうです。
難しいのは便を入れることではなく、ドナー選び
一方で、最も慎重になるべきなのがドナーです。
健康で正常便というだけでは不十分で、最近の下痢や嘔吐、慢性的な消化器症状がないこと、抗菌薬を過去6か月使っていないこと、生肉や刺身などの生ものを過去30日食べていないことなどを確認します。
「同居していて下痢をしない犬ならドナーにできるのでは」と考えました。実際、そうした犬は有力な候補だと思います。
ただし、同居犬だから安全というわけではなく、Salmonella、Campylobacter、Giardia、Cryptosporidium、その他の腸内寄生虫などの検査が推奨されています。
つまりFMTでは、便をどう入れるかよりも、「誰の便を使うか」のほうが重要なのかもしれません。
慢性下痢では、一度で終わらないこともある
犬の慢性腸症では、FMTを補助療法として使用できるだけの一定のエビデンスがあります。
ただし、1回で治す治療というより、反応を見ながら繰り返す治療と考えたほうがよさそうです。
慢性腸症41頭の報告では、FMTは中央値3回行われ、多くは10~20日間隔でした。また、FMTに反応した犬の74%では、1回目よりも2回目の後にさらに改善がみられています。
一方、急性下痢ではもっと少ない回数でもよさそうです。特に犬のパルボウイルス感染では比較的しっかりしたエビデンスがあり、標準治療にFMTを加えることで、下痢の改善が早まり、入院期間が短くなったと報告されています。
今後、一般診療でも使いやすくなる治療かもしれない
まだ最適な投与量や回数は確立されておらず、猫ではデータも少ない治療です。
それでも、特別な機器を必要とせず、慢性腸症などで従来治療に反応しにくい症例に別の選択肢を与えられる点は魅力的です。
読んでみて一番印象に残ったのは、FMTは「難しい治療」ではなく、安全なドナーをきちんと選ぶことができれば、意外に身近な治療になり得るということでした。
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