猫の診療では、
診察 → 疼痛評価 → 必要なら鎮痛
をルーチン化することが重要です。
疼痛スケールのカットオフ値に達していなくても、獣医師が「痛みがある」と判断すれば鎮痛してよいとしています。
食欲低下も疼痛の指標になる可能性があります。痛みのある猫では、食べなくなることがあるためです。
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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
疼痛評価は「見る」だけではない
猫の疼痛評価は、
観察 → 接近 → 接触 → 疼痛部位の軽い触診
という流れで行います。
疼痛が十分にコントロールされていれば、手術創の周囲を軽く触診しても強い反応は出ないはずです。
「じっとしているから痛くなさそう」と判断するのではなく、実際にやさしく触り、その反応を見るところまでが疼痛評価です。
特に重要なのがFeline Grimace Scale(猫のしかめ面スケール)です。
耳、目、マズル、ヒゲ、頭の位置など、猫の顔の変化から疼痛を評価します。
また、最初の痛みを十分に抑えないと、末梢感作や中枢感作が起こり、その後「痛みやすい状態」になる可能性があります。
猫は薬物代謝が独特
猫では薬物代謝に関わる抱合反応、特に
glucuronidation(グルクロン酸抱合)
sulfation(硫酸抱合)
glycosylation
が犬やヒトとは異なります。
一方、oxidation(酸化)を主な代謝経路とする薬では、犬より猫の方が速く排泄されることがあります。
また、高窒素血症では血液脳関門の透過性が上がり、薬の中枢作用が予想以上に強く出る可能性があります。
急性疼痛治療の3本柱
急性疼痛治療の基本として、このガイドラインでは、
オピオイド
局所麻酔薬
非ステロイド性抗炎症薬
を挙げています。
さらに、疼痛だけでなく、
抗不安
筋弛緩
制吐
非薬物療法
も疼痛管理の一部として考えます。
具体的には、マロピタントやオンダンセトロンで周術期の嘔吐を減らし、ガバペンチンも不安軽減目的で使用します。
痛みが続く時間も考える
たとえば、
尿道カテーテル挿入や内視鏡:2時間未満
術後疼痛:24〜72時間
と、疼痛が続く時間は処置によって異なります。
長時間続く中等度〜重度の疼痛では、
ブプレノルフィンの反復投与
オピオイドやケタミンのCRI
などを考えます。
「どの薬を使うか」だけでなく、どのくらい痛みが続くのかを考えて鎮痛計画を立てることが重要です。
局所麻酔をもっと使う
このガイドラインでは、局所麻酔をかなり重視しています。
静脈カテーテル留置時にも局所麻酔を使用できます。
切開部浸潤麻酔は、避妊手術をはじめ多くの手術で使用できます。
避妊手術では、腹腔内局所麻酔として左右の卵巣茎と子宮体尾側に局所麻酔薬を散布する方法があります。
疼痛部位への散布も選択肢です。
ブピバカインでは、総量2 mg/kgを超えないことが重要です。
去勢手術では、局所麻酔薬を0.1〜0.25 mL/精巣、精巣中央へ注入します。
さらに、陰嚢皮膚への切開部浸潤を組み合わせます。
歯科では、眼窩下神経ブロック、下歯槽神経ブロックなどを使用します。
投与量は非常に少なく、通常0.2 mL程度です。
猫の硬膜外麻酔は解剖に注意
猫では、
脊髄がS1付近まで
硬膜嚢がS3付近まで
尾側へ伸びています。
そのため犬よりも、腰仙部硬膜外で意図せずくも膜下腔へ針が入るリスクが高くなります。
目安として、
仙尾部硬膜外:針の深さ 約0.6 cm
腰仙部:皮膚から黄色靱帯まで 約1 cm
と、非常に浅いことも特徴です。
猫では腰仙部だけでなく、特に尿道閉塞などで仙尾部硬膜外麻酔も有用な選択肢になります。
このガイドラインを一言でまとめると
猫の疼痛管理は、「痛そうなら鎮痛する」ではなく、
「毎回痛みを評価し、オピオイド・NSAIDs・局所麻酔を中心に、環境、看護、不安、嘔吐まで含めて多面的に管理する」
という考え方です。
特に、
疼痛評価をルーチン化すること
局所麻酔を積極的に取り入れること
が印象に残りました。
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