猫の肺腫瘍|咳がなくても進行する肺がんと足先に出る転移のサイン

猫の肺腫瘍には、肺そのものから発生する「原発性肺腫瘍」と、別の臓器にできたがんが肺へ広がる「転移性肺腫瘍」があります。

猫で肺に腫瘍が見つかった場合、まず大切なのは、それが肺から始まったものなのか、ほかのがんが肺へ転移したものなのかを見極めることです。乳腺腫瘍、口腔内腫瘍、骨や軟部組織の腫瘍、血管肉腫など、さまざまながんが肺へ転移することがあります。

一方で、肺そのものから発生する原発性肺腫瘍は比較的まれです。ただし、猫の原発性肺腫瘍は悪性度が高いことが多く、発見された時点ですでに進行していることも少なくありません。

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

咳がないから安心、とは言えません

猫の肺腫瘍が見つかりにくい理由は、初期には症状が出にくいことです。

肺には大きな予備能力があります。腫瘍がひとつの肺葉にできていても、残りの肺が酸素の取り込みを補うため、しばらくは普段通りに見えることがあります。

また、咳を起こす刺激を感じやすい場所は、気管や太い気管支に多くあります。肺の奥のほうに腫瘍ができた場合、ある程度大きくなるまで咳が出ないことがあります。

そのため、猫の肺腫瘍は、健康診断、手術前検査、ほかの病気の検査で胸部レントゲンを撮ったときに偶然見つかることがあります。反対に、咳や呼吸困難が出た時点では、すでに病気が進んでいることもあります。

猫に特徴的な肺指症候群

猫の原発性肺腫瘍で特に重要なのが、「猫肺指症候群」です。

これは、肺にできたがんが血流に乗って足先、特に指の骨や爪のまわりへ転移する病態です。肺の病気であるにもかかわらず、最初に目立つ症状が足先に出ることがあります。

猫肺指症候群では、指の腫れ、爪のまわりの赤み、爪の根元からの分泌物、爪が浮く、爪が抜ける、強い痛み、跛行などが見られます。複数の足指に症状が出ることもあります。

見た目は、爪周囲炎、外傷、咬傷、感染、関節炎のように見えることがあります。そのため、抗菌薬や消炎鎮痛薬でしばらく様子を見るうちに、診断が遅れてしまうことがあります。

中高齢の猫で、足指の腫れや強い痛みがあり、通常の治療に反応しない場合は、足だけの問題と決めつけず、胸部レントゲンを含めた全身の確認が大切です。

肺腫瘍で見られる症状

肺腫瘍で見られる症状は、呼吸器症状だけではありません。

咳、呼吸が速い、胸やお腹を大きく動かして呼吸する、開口呼吸、疲れやすい、運動を嫌がるといった症状が出ることがあります。

また、食欲低下、体重減少、元気消失、毛づやの低下、脱水などが見られることもあります。がんによる慢性的な炎症や代謝の変化により、食べているのに痩せる、筋肉が落ちるという状態になることもあります。

胸水がたまると、急に呼吸が苦しくなることがあります。この場合は緊急性が高く、早めの対応が必要です。

検査と治療

肺腫瘍が疑われるときは、まず胸部レントゲン検査を行います。肺の中のしこり、白い影、肺葉の硬化、胸水、リンパ節の腫れなどを確認します。

より詳しい評価にはCT検査が有用です。CTでは、腫瘍の大きさ、位置、血管や気管支との関係、リンパ節転移、ほかの肺葉への広がりを詳しく確認できます。手術ができるかどうかを判断するうえでも重要です。

単一の肺葉に限局した原発性肺腫瘍で、明らかな転移がない場合は、肺葉切除が治療の中心になります。完全に切除でき、リンパ節転移がなければ、長期生存が期待できることもあります。

一方で、胸水、リンパ節転移、複数の肺病変、足指や全身への転移がある場合は、根治は難しくなります。この場合は、抗がん剤、分子標的薬、消炎鎮痛薬、ステロイド、酸素管理、胸水抜去、食欲維持、疼痛管理などを組み合わせ、生活の質を保つ治療を考えます。

緩和ケア

猫肺指症候群がある場合、すでに全身への転移が起きている可能性が高くなります。

この段階で痛む指を切除しても、別の指に症状が出たり、体全体の病気の進行を止められなかったりすることがあります。そのため、断指が必ずしもよい緩和になるとは限りません。

大切なのは、猫が痛みに耐え続けないようにすることです。強い痛みがある場合は、通常の消炎鎮痛薬だけでは足りないことがあります。オピオイド系鎮痛薬、神経痛に使う薬、消炎鎮痛薬などを組み合わせ、痛みをできるだけ抑えます。

治癒が難しい病気であっても、痛みを減らし、呼吸を楽にし、残された時間を穏やかにすることは、とても重要な治療です。

まとめ

猫の肺腫瘍は、咳や呼吸困難が出る前に進行していることがあります。

特に猫では、肺のがんが足指に転移し、爪のまわりの腫れや強い痛みとして見つかることがあります。これは猫肺指症候群と呼ばれ、肺の病気でありながら、最初に足の異常として現れることがある重要な病態です。

中高齢の猫で、治りにくい足指の腫れ、爪の異常、強い跛行がある場合は、肺腫瘍の可能性も考える必要があります。

治療は、手術で長期生存を目指せる場合もあれば、痛みや呼吸苦を減らす緩和ケアが中心になる場合もあります。大切なのは、その猫が今どれくらい苦しいのか、何をすれば一番穏やかに過ごせるのかを、ご家族と一緒に考えることです。

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