猫の膀胱腫瘍は、犬に比べると多い病気ではありません。
しかし、発生した場合は悪性腫瘍であることが多く、その代表が移行上皮癌です。
移行上皮癌は、膀胱の内側を覆う粘膜から発生する腫瘍です。膀胱の壁に深く入り込むように広がり、尿管や尿道の出口に近い場所にできると、尿の流れを妨げることがあります。
猫では高齢になってから見つかることが多く、最初は膀胱炎とよく似た症状で始まります。
執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
膀胱炎と似た症状に注意
猫の膀胱腫瘍でよく見られる症状は、血尿、頻尿、排尿時のいきみ、トイレに何度も入る、尿の量が少ない、排尿時に鳴くといったものです。
これらは、特発性膀胱炎、細菌性膀胱炎、尿石症でもよく見られる症状です。そのため、最初から腫瘍を疑うのは簡単ではありません。
ただし、中高齢の猫で、血尿や頻尿が繰り返される場合、抗菌薬や消炎薬で一時的によくなってもすぐ再発する場合、尿検査で明らかな感染や結石がないのに症状が続く場合は、膀胱腫瘍も考える必要があります。
「膀胱炎を繰り返している」と思っていたら、実は膀胱の腫瘍だったということがあります。
尿が出ないときは緊急です
膀胱腫瘍が進行すると、腫瘍が尿道の出口をふさいだり、腎臓から膀胱へ尿を送る尿管の出口を巻き込んだりすることがあります。
尿道がふさがると、尿が出なくなります。尿管がふさがると、腎臓に尿がたまり、水腎症や腎後性腎不全を起こすことがあります。
尿がほとんど出ない、何度もトイレに行くのに出ていない、ぐったりしている、吐く、食べないといった症状がある場合は、様子を見ずに早急な受診が必要です。尿路閉塞は、数日ではなく短時間で命に関わることがあります。
検査で何を確認するか
膀胱腫瘍が疑われる場合、まず尿検査、血液検査、腹部エコー検査を行います。
尿検査では、血尿、炎症、細菌、結晶の有無を確認します。血液検査では、腎臓の数値、炎症、貧血、全身状態を確認します。
腹部エコー検査では、膀胱壁の厚さ、しこりの有無、腫瘍の場所、膀胱三角部や尿道口への広がり、腎臓や尿管の拡張、リンパ節の腫れを確認します。必要に応じて、レントゲンやCT検査で転移や広がりを調べることもあります。
膀胱腫瘍では、細胞や組織を取って診断したい場面があります。ただし、膀胱に腹壁から直接針を刺す検査は、腫瘍細胞を針の通り道にまき散らす「播種」のリスクがあるため、慎重に考える必要があります。診断方法は、腫瘍の位置、全身状態、治療方針を考えながら選びます。
治療は場所と進行度で変わります
腫瘍が膀胱の先端や体部に限局していて、尿管や尿道から離れている場合は、部分的に膀胱を切除する手術が選択肢になります。腫瘍を減らすことで、血尿や頻尿が改善し、生存期間の延長が期待できることがあります。
一方で、腫瘍が膀胱三角部、尿管口、尿道口に広がっている場合は、完全切除が難しくなります。この場合は、無理な手術よりも、内科治療や尿路を確保する処置を組み合わせて考えます。
内科治療では、非ステロイド性消炎鎮痛薬、抗がん剤、分子標的薬などを検討することがあります。ただし、猫では腎臓への影響、食欲不振、嘔吐、下痢、骨髄抑制などに注意が必要です。腫瘍を完全に消すというより、症状を和らげ、進行を抑え、生活の質を保つ目的で行うことも多くあります。
緩和ケア
膀胱腫瘍では、血尿、排尿痛、頻尿、尿路閉塞が生活の質を大きく下げます。
根治が難しい場合でも、痛みを減らす、血尿を抑える、尿が出る状態を保つ、吐き気や食欲不振を管理することは大切な治療です。
尿管が閉塞している場合には、SUBシステムなどの尿路バイパスを検討することがあります。尿道が狭くなっている場合には、カテーテル管理や膀胱瘻などを考えることもあります。どこまで行うかは、猫の状態、予後、通院や在宅管理の負担を含めて相談します。
まとめ
猫の膀胱腫瘍はまれですが、血尿、頻尿、排尿困難が続く中高齢の猫では考えておきたい病気です。
膀胱炎のように見えても、治療しても再発する、尿検査で原因がはっきりしない、エコーで膀胱壁の肥厚やしこりがある場合は、腫瘍の可能性があります。
特に尿が出ない状態は緊急です。排尿姿勢を何度も取るのに尿が出ていない、ぐったりしている、吐いている場合は、すぐに受診が必要です。
治療は、手術で腫瘍を減らせる場合もあれば、内科治療や緩和ケアを中心にした方がよい場合もあります。血尿や頻尿を「いつもの膀胱炎」と決めつけないでください。