AAFP Feline Retrovirus Testing and Management Guidelines 2020を読んで

FeLVとFIVは、今でも猫で重要な感染症です。今回のガイドラインを読むと、単純に「陽性・陰性」だけでは捉えられないことがよく分かります。

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

FeLVは「感染した・しない」だけではない

FeLVは猫同士の濃厚な接触で感染します。特に子猫は感受性が高く、progressive infectionになりやすいとされています。

FeLVに曝露した後の状態は、大きく3つに分けられます。

完全に抑え込む → abortive infection

ウイルスDNAは残るが増殖を抑える → regressive infection

抑えきれず増殖が続く → progressive infection

FeLVを単純な「陽性・陰性」だけで考えず、感染後にウイルスをどこまで抑え込めたかで考えることが、このガイドラインを理解するうえで重要でした。

FIVは感染が成立すると基本的に持続感染

FIVはFeLVとは違い、感染が成立すると基本的にpersistent infectionとなります。

診断の基本はFIV抗体検査です。ただしFIVワクチンを接種した猫では、ワクチンによる抗体と自然感染による抗体を区別しにくい検査があります。そのため、検査結果だけでなくワクチン歴まで含めて解釈する必要があります。

FeLVは「仲の良い猫」、FIVは「仲の悪い猫」で広がる

かなり単純化すると、FeLVはグルーミングや食器の共有など、仲良く濃厚接触する猫同士でも感染します。一方、FIVは主としてケンカによる咬傷で感染します。

実際、安定した家庭でケンカをしない猫同士では、FIV感染リスクは非常に低いとされています。

「FeLVは仲の良い猫でも広がる。FIVは仲の悪い猫の感染症」と覚えると、感染経路の違いが分かりやすいですね。

FeLV/FIV陽性だから隔離室、ではない

FeLVとFIVは環境中では不安定で、通常の洗剤や病院用消毒薬で速やかに不活化されます。

そのためガイドラインでは、FeLV/FIV陽性猫を感染症隔離室に入れる必要はなく、一般病棟で管理してよいとしています。むしろ免疫抑制された猫を、他の感染症患者がいる隔離室に入れることの方が問題になり得ます。

一方、血液などの体液を介した感染には注意が必要です。外科器具、歯科器具、気管チューブ、静脈ライン、輸液バッグ、注射針、経口投薬用シリンジなどは患者間で共有しない。使い捨てにできるものは使い捨て、できないものはきちんと洗浄、消毒、乾燥し、必要に応じて滅菌する。こちらの方が大切です。

前職では、FeLV/FIV陽性猫をガウンを着て隔離室で処置しているのを見て、「そこまで必要なのかな」と疑問に感じていました。

少なくともこのガイドラインを読む限り、FeLV/FIV陽性という理由だけでそこまでの隔離は求めていません。一度院内ルールになると、「本当に必要?」と言いにくくなることはありますね。

シェルターでは「全部検査」が正解とは限らない

シェルターでは資源が限られます。

そのため、「すべての猫に理想的な検査をする」ことよりも、「限られた資源をどう使えば猫全体の福祉を最大化できるか」を考えます。

個別飼育ならFeLV/FIV検査は必須ではありません。一方、群飼育するなら検査が重要になります。

TNR(Trap–Neuter–Return:捕獲・不妊去勢・元の場所へ戻す)では、FeLV/FIV検査に資源を使うより、できるだけ多くの猫を不妊去勢することを優先し、ルーチン検査を推奨していません。

また、シェルターではFIVワクチンも推奨されません。ケンカしない同居猫間ではFIV感染が少なく、ワクチンの防御効果も一定ではなく、さらにワクチン抗体が将来のFIV診断を難しくするためです。

ウイルスそのもの以上に「環境」が大切かもしれない

FIV感染猫では、高密度の多頭飼育環境より、1~2頭程度の家庭で暮らした猫の方が良好な経過を示した研究があります。

FeLVでも、高密度飼育、ストレス、高い感染圧、共感染などがprogressive infectionにつながる可能性が示されています。

つまり、FIV/FeLVそのものだけでなく、飼育密度、ストレス、感染圧といった環境要因が臨床経過を大きく左右する可能性があります。

発症した病気を普通に治療する

FeLV/FIV陽性猫が病気になったときも、「すべてウイルスのせい」とは考えません。

通常の猫にも起こる病気なのか、免疫抑制による二次疾患なのか、それともretrovirusそのものによる病気なのかを分けて考えます。

重度のg歯肉口内炎では、内科治療を繰り返すより、歯根を残さない全顎抜歯の方が長期的には有益とされています。

抗レトロウイルス治療はまだ限定的

人のHIV治療のような強力な多剤併用抗レトロウイルス療法は、猫ではまだ確立していません。

数少ない選択肢のひとつがzidovudine(AZT:ジドブジン)です。特に神経症状や口内炎のある猫で、ウイルス量を減らし臨床状態を改善する可能性があります。ただしFeLV感染猫では、非再生性貧血などの副作用に注意が必要です。

インターフェロンも使用されますが、治療効果を裏付ける質の高い臨床試験は十分ではありません。

結局、このガイドラインを読んで感じるのは、

「FeLV/FIV陽性だから特別扱いする」

よりも、

「感染状態を正しく理解し、過剰な隔離をせず、ストレスを減らし、普通の病気を早く見つけてきちんと治療する」

という考え方が大切なのだと思います。

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