無症状の心雑音がある猫では、雄、BCS 6/9以上、心雑音3/6以上、NT-proBNP 109 pmol/L以上の4項目を組み合わせると、心疾患のスクリーニング精度が向上するという研究です。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41742490
要旨
背景:心雑音は、無症状の心疾患を有する猫にも、心臓が正常な猫にも認められることがある。心疾患を検出するための心エコー検査は、すべての飼い主にとって容易に利用できるとは限らない。
仮説/目的:無症状の心雑音を有する猫を対象に、個体情報(シグナルメント)、身体検査所見、および心臓バイオマーカーを組み合わせることで、心疾患をスクリーニングする際の精度を評価する。
対象動物:心雑音は認められるものの、心疾患の臨床徴候は示さない猫202頭。
方法:単一施設における横断研究。全症例に対して心エコー検査を実施した。多変量ロジスティック回帰分析を用い、心疾患の有無と独立して関連する変数を特定した。データはオッズ比(OR)、曲線下面積(AUC)、および95%信頼区間(95% CI)で示した。
結果:123頭(123/202、60.9%)に心疾患が認められ、その中で肥大型心筋症が最も多かった(59/123、48%)。中等度から重度の左心房拡大が認められた猫は少数であった(24/202、11.9%)。N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)値が109 pmol/L以上(OR 5.9、95% CI 2.6–14.1)、ボディコンディションスコア(BCS)が6/9以上(OR 4.0、95% CI 1.6–11.6)、心雑音のグレードが3/6以上(OR 3.6、95% CI 1.6–8.2)、およびオスであること(OR 2.8、95% CI 1.2–6.6)が、心疾患の有無と独立して関連していた。この4つの変数を用いたモデルのAUCは0.81(95%信頼区間:0.74–0.88)であり、個体情報および身体検査項目のみを用いた場合(AUC 0.74;95%信頼区間:0.67–0.82)や、NT-proBNP単独の場合(AUC 0.73;95%信頼区間:0.65–0.80)よりも高い値を示した。心疾患の特定における本モデルの感度は86.5%(95%信頼区間:78.7%–91.8%)、特異度は61.0%(95%信頼区間:48.3%–72.4%)であった。
結論および臨床的意義:無症状の心雑音を有する猫において、個体情報、身体検査所見、およびNT-proBNPの値を組み合わせることは、心疾患の可能性が高い個体を特定するのに役立つ。これは、心エコー検査を実施する対象となる猫を選別する際の判断材料となり得る。
先天性心疾患は除外して、心筋症に絞ってほしかった
今回の研究では、心疾患のある123頭のうち13頭に先天性心疾患が含まれていました。
心雑音から何らかの心疾患を発見するという研究目的ですから、先天性心疾患を含めることは理解できます。
しかし、臨床的に知りたいのは、無症状の心雑音からHCMなどの心筋症をどこまで予測できるか、ということです。
また、40頭の境界域HCMも心疾患群に含まれています。SAMのみを認め、左室壁厚が正常な症例も含まれるため、確定的な心筋症とは分けて考えたいところです。
先天性心疾患と境界域HCMを除外し、明確な心筋症に限定して再解析した場合にも、同じ4項目が有用なのかを知りたいと思いました。
体重が重いほど心筋症になりやすいのか?
今回の研究では、BCS 6/9以上が心疾患と強く関連していました。
しかし、肥満が心筋症の原因であると証明されたわけではありません。
体格が大きい猫では左室壁厚が厚くなる傾向があり、肥満そのものが心臓に影響している可能性もあります。
著者らは、肥満が遺伝的素因のある猫でHCMの発症を促進する可能性と、肥満によってHCMに似た心肥大が起こる可能性を挙げています。
肥満と心筋症の因果関係は、まだ明らかではありません。
心雑音がある雄猫では、心エコーかBNP検査を考える
雄であることは、心疾患の存在と独立して関連していました。
特に、雄でBCS 6/9以上、心雑音3/6以上であれば、心エコー検査を積極的に勧める根拠になります。
心エコー検査が難しければ、NT-proBNP検査を追加して判断する方法もあります。
ただし、雄という理由だけで必ず検査が必要というわけではありません。心雑音の強さやBCSも含めて評価する必要があります。
雌猫や痩せた猫はどうなるのか?
ここが気になるところです。
雌、BCS 6/9未満、心雑音3/6未満、NT-proBNP 109 pmol/L未満という4条件を満たす猫でも、モデル上の心疾患予測確率は13.4%でした。
また、雌でBCS 6/9未満でも、心雑音3/6以上、NT-proBNP 109 pmol/L以上であれば、予測確率は76.6%になります。
つまり、雌で痩せているからといって、心疾患を除外できるわけではありません。
まとめ
心雑音がある猫では、性別、BCS、心雑音の強さだけでも、心疾患の可能性をある程度評価できます。
そこにNT-proBNPを追加すると、スクリーニング精度が向上します。
ただし、雌猫やBCSが低い猫にも心筋症は存在するため、4項目が陰性でも心疾患を否定することはできません。
日常診療では、2/6の心雑音を認めた猫について、心エコーやNT-proBNP検査を勧めるという使い方は変わらなさそうです。
