猫の慢性疼痛というと、関節を触って痛がるか、歩き方がおかしくないか、といった診察室での評価を思い浮かべます。しかし今回のガイドラインを読んで、猫の慢性痛は診察台の上だけで診断しない、という考え方が印象に残りました。
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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
猫の慢性痛は自宅での行動を見る
猫の慢性疼痛では、行動の変化が重要な指標になります。
そのため、歩く、階段を使う、ジャンプするといった普段の行動を飼い主さんに動画で撮ってもらいます。できれば、治療前後の動画を比較すれば、治療効果の評価にも使えます。
痛いか分からなければ、鎮痛して反応を見る
痛みがあるかはっきりしない猫では、trial analgesic therapy(試験的鎮痛治療)も診断の助けになります。
「痛みを証明してから鎮痛する」だけではなく、「鎮痛への反応も診断材料にする」ということですね。
長期NSAIDsを始める前にはしっかり評価する
問診では、CKD、慢性腸症、糖尿病など、脱水を起こしやすい疾患がないか確認します。また、利尿薬、ACE阻害薬、ステロイドなどの併用薬も確認します。
身体検査では水和状態だけでなく、血圧測定や眼底検査まで行います。
血液検査だけでなく尿検査も重要で、ガイドラインでは尿比重の評価をessential(必須)としています。
長期投与では最低有効量を目指す
長期NSAIDsでは、lowest effective dosage(最低有効量)を目指します。
ただし、副作用が怖いから最初から極端に少なくするという意味ではありません。まず十分な鎮痛を得て、その後、疼痛を評価しながら徐々に減量し、その猫で効果が維持できる最低量を探していきます。
NSAIDsを変更するときはwashout
別のNSAIDsへ変更するときには休薬期間を設けます。
副作用が理由でなければ、理想的には7日間のwashoutを置きます。長いですね・・・。副作用が出て変更する場合には、少なくとも7日間、さらに副作用や関連する病変が改善するまで待ちます。
NSAIDs同士を重ねない、ステロイドとも併用しないことが基本です。
安定したCKDならNSAIDsは必ずしも禁忌ではない
これまで「腎臓が悪い猫にNSAIDsは使いにくい」と考えていましたが、今回かなり印象が変わりました。
安定したCKDなら、NSAIDsは必ずしも禁忌ではありません。
個々の猫の状態を評価し、飼い主さんに十分説明して適切にモニタリングすれば、stable CKDの猫でもNSAIDsを使用できる場合があります。
一方、脱水、循環血液量減少、低血圧、進行性・不安定な腎疾患などでは避けます。
つまり、「Creが高いから使わない」ではなく、「そのCKDが安定しているか、水和状態は大丈夫か」を見るという考え方です。
ソレンシアもNSAIDsと並ぶ第一選択
DJD/OAによる慢性疼痛では、抗NGF抗体であるフルネベトマブ(ソレンシア)とNSAIDsはいずれも第一選択として扱われています。
「まずNSAIDs、それが使えなければソレンシア」という単純な順番ではありません。
猫の状態、併存疾患、投薬のしやすさなどを考えて選択します。
来院前ガバペンチンを使っても疼痛評価はできそう
病院で恐怖やストレスが強い猫では、正確な疼痛評価が難しくなります。
来院前にガバペンチンやプレガバリンを使用して不安を軽減しても、整形外科的な疼痛の検出を大きく妨げる可能性は低いと考えられています。
ただし、これはまだ直接検証されておらず、ガバペンチンは歩様に影響する可能性があるため、神経学的評価では注意が必要です。
NSAIDsだけで慢性痛を治療しない
このガイドライン全体を通して感じたのは、猫の慢性疼痛管理は「どのNSAIDsを使うか」だけの話ではないということです。
薬物療法だけでなく、段差を減らす、ステップやスロープを置く、床を滑りにくくする、入口の低いトイレを用意するといった環境改善も治療の一部です。
そして飼い主さんには、薬を飲ませてもらうだけでなく、副作用、鎮痛効果、自宅での行動変化まで観察してもらいます。
猫の慢性疼痛は、薬物療法、自宅環境の改善、飼い主さんによる行動観察を組み合わせたmultimodalな治療で管理する、というのがこのガイドラインの大きなメッセージだと思いました。
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