AAHA Diabetes Management Guidelines for Dogs 2026を読んで

犬の糖尿病というと、これまでは「インスリンが足りないので補う病気」というイメージが強かったのですが、今回のガイドラインでは、インスリン治療だけでなく、インスリン抵抗性を起こす併発疾患を探すことの重要性が繰り返し強調されています。

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

インスリンが効かないなら、併発疾患を探す

犬の糖尿病では、インスリンを増やしても血糖が下がらない場合があります。

そのようなときには、単純にインスリン量を増やすのではなく、肥満、歯科疾患、感染症、膵炎、クッシング症候群、甲状腺機能低下症など、インスリン抵抗性を起こす病気がないかを調べます。

ただし、最初から特殊検査をするわけではありません。

まず、インスリンの保存方法、混和方法、シリンジ、注射手技を確認し、ステロイドなどインスリン抵抗性を起こす薬剤を使っていないか確認します。

「インスリンが効かない」と思ったら、まず本当に正しく投与されているかを見る、という考え方です。

ハンディ型ケトンメーターを置いておく

糖尿病性ケトアシドーシスでは、尿中ケトンよりも血中β-ヒドロキシ酪酸を測定するほうが、病態を早く把握できます。

ガイドラインでは、ハンディ型の血中ケトンメーターは比較的安価で簡便なため、動物病院に用意しておくことを勧めています。

具合の悪い糖尿病犬が来院したときに、その場でケトンを測れるのは確かに便利です。

痩せている糖尿病犬には、高繊維食にこだわらない

ここはとても大事だと思いました。

肥満した糖尿病犬では高繊維食が役立つことがありますが、痩せている犬まで高繊維食にする必要はありません。

痩せている糖尿病犬の目標は、

体重を戻すこと、筋肉量を増やすこと、代謝を安定させること

です。

高繊維食ではカロリー密度が低くなりすぎ、必要なエネルギーを十分に摂れないことがあります。

糖尿病だから特別な食事でなければならないわけではない

ガイドラインでは、糖尿病犬は、

「完全かつバランスの取れた食事を、決まった時間に、適切な量で、安定して食べることができれば、さまざまな食事で良好に管理できる」

としています。

糖尿病食そのものにこだわるより、毎日安定して食べられることのほうが重要なのですね。

また、腎臓病や膵炎、消化器疾患などの併発疾患がある場合には、糖尿病食よりも、そちらの病気に必要な食事を優先します。

完璧な血糖値を目指さない

今回のガイドライン全体を通して印象的だったのは、血糖値を正常範囲にそろえることを目標にしていないことです。

多飲多尿が改善し、体重が維持され、元気に生活できていて、低血糖を起こしていなければ、多少の高血糖が残っていても許容します。

血糖値そのものより、

犬がどう生活しているか

を見るという考え方です。

糖尿病治療には時間とお金がかかることも最初に伝える

糖尿病治療には、

時間的負担と経済的負担

があることを、最初から飼い主さんに現実的に説明する必要がある、としています。

毎日のインスリン注射、食事管理、血糖モニタリング、定期検査など、長期間続ける治療だからです。

一方で、適切に管理できれば、多くの糖尿病犬は良好なQOL(Quality of Life:生活の質)を保つことができます。

治療の大変さだけでなく、「きちんと管理すれば普通に生活できる病気」であることも同時に伝えることが大切なのでしょう。

今回のガイドラインを読んで、犬の糖尿病治療は、

「血糖値を正常にする治療」ではなく、

「低血糖を避けながら、症状を抑えて、犬が普通に生活できる状態を維持する治療」

と考えるのがよさそうです。

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