犬の診察で心雑音が見つかり、「最近咳もするので、心臓が悪くなったのでしょうか」と相談されることがあります。特に高齢の小型犬では、**僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁粘液腫様変性:MMVD)**がよくみられます。
ただし、心雑音があって咳をしているからといって、必ずしも心不全とは限りません。犬の咳には、心臓だけでなく気管や気管支など呼吸器の病気が関係していることも少なくありません。
執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
心雑音とは?
心雑音は、心臓の中を流れる血液によって生じる異常な音です。僧帽弁閉鎖不全症では、左心室から左心房へ血液が逆流するため、聴診器で「ザーッ」という雑音が聞こえるようになります。
病気が進行すると左心房や左心室が大きくなり、さらに進むと肺の血管に圧力がかかり、肺の中に水分がたまる肺水腫を起こすことがあります。これが僧帽弁閉鎖不全症による左心不全です。
僧帽弁閉鎖不全症になると咳が出る?
心不全によって肺水腫が起これば、咳が出ることはあります。しかし、肺水腫でより特徴的なのは、咳そのものより呼吸が速くなることです。
一方、高齢の小型犬では、僧帽弁閉鎖不全症と同じ年代に慢性気管支炎、気管虚脱、気管支軟化症なども起こりやすくなります。そのため、
「心雑音がある」+「咳をする」=「心不全」
とは限りません。
心臓からの咳かどうかは、咳だけでは判断できない
そのため、咳の原因を調べるときには、心雑音の強さだけではなく、胸部レントゲン検査や心臓超音波検査などを組み合わせて、心臓の大きさ、肺水腫の有無、気管・気管支の状態を確認します。
咳よりも「寝ているときの呼吸数」に注意
僧帽弁閉鎖不全症の犬で、心不全を自宅で早く見つけるために役立つのが安静時、特に睡眠中の呼吸数です。
犬が熟睡しているときに胸の上下を数えます。一般的には1分間30回未満が目安で、普段より明らかに増えてきたり、30回/分を超える状態が続いたりする場合には注意が必要です。肺水腫では呼吸数の増加が重要な変化であり、ACVIMのガイドラインでも、自宅での呼吸数の変化は心不全悪化を見つけるうえで有用とされています。
デジタル時計ですと開始と終了の数字を覚え、数も数えなければなりません。アナログ時計ですと終わりの秒針の位置さえ確認すれば数を数えるだけです。
心雑音がある犬が咳をしたら
心雑音がある犬が咳をしても、それだけで「心不全になった」と判断する必要はありません。一方で、僧帽弁閉鎖不全症が進行して肺水腫を起こしている可能性もあるため、咳が増えてきた場合には一度確認した方がよいでしょう。
特に、寝ているときの呼吸が速い、呼吸が苦しそう、お腹を使って呼吸する、横になって眠れない、舌の色が悪いといった変化があれば、単なる咳よりも緊急性が高くなります。
「心臓病があるから咳が出る」のではなく、心臓病と咳の原因を分けて考えることが大切です。
