ホーム > 腫瘍まとめ > 症状 > 「犬のしこりは良性が多い」は本当。でも「痛くないから大丈夫」が危険な理由
執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
愛犬や愛猫の体に「ぷくっ」としたしこりを見つけたとき。多くの飼い主さんは、しこりを触ってこうおっしゃいます。
「触っても痛がらないし、本人は元気だから、悪いもの(がん)じゃないですよね?」
統計的に見れば、確かに犬の皮膚腫瘍の多くは良性です。しかし、腫瘍科の現場にいる獣医師として、どうしてもお伝えしなければならない「確率の罠」があります。
それは、「命に関わる悪性腫瘍(がん)であっても、初期は全く痛がらない」という事実です。
1. 「痛くない=安全」ではない理由
体の中で炎症(膿が溜まる、怪我をする)が起きているときは、体が異物と戦っているため「痛み」や「熱」が出ます。これは分かりやすいサインです。
一方で、がん細胞は「自分の細胞」が暴走したものです。
• 良性のしこり(脂肪腫など): 痛くない。命に関わらない。
• 悪性のしこり(がん): 痛くない。 静かに増殖し、命に関わる。
つまり、「痛くない」という点では、良性も悪性も同じなのです。「痛がらないから良性だ」と判断することは、実はとても危険なギャンブルになってしまいます。
2. 見逃してはいけない「質の変化」
痛みがない代わりに、注意深く触ることで気づける「悪性のサイン」があります。以下の特徴があれば、良性の確率がぐっと下がります。
• 根を張っている(動かない):
皮膚と一緒に動かず、下の筋肉や骨に張り付いているような違和感がある。
• 成長スピードが早い:
「先月より一回り大きくなった」と感じる場合は、細胞分裂のスピードが異常に早い証拠です。
3. なぜ「様子見」がリスクになるのか
• 感触が変わる:
以前は柔らかかったのに、一部がゴツゴツ硬くなってきた。
良性のしこりなら、一生様子を見ていても問題ありません。
しかし、もしそれが悪性だった場合、痛くないからと1ヶ月、3ヶ月と様子を見ている間に、がんは目に見えない「根っこ」を周囲の組織へ深く伸ばし、他の臓器へ転移する準備を始めます。
「痛がりだしたとき」には、すでに腫瘍が神経を巻き込んでいたり、皮膚を突き破って自壊(じかい)していたりと、手術での完治が難しいステージに入っていることが少なくありません。
4. 獣医師からのアドバイス:受診のデッドライン
「良性が多い」という安心感と、「もしも」への備え。そのバランスを取るための基準がこちらです。
• 猫の場合: しこりを見つけたら、サイズに関わらず即受診。
• 犬の場合: 「1 cm(指先サイズ)」を超えたら、あるいは1ヶ月で大きくなったら受診。
この基準に当てはまれば、痛みがあるかないかに関わらず、細胞診(針検査)で正体を突き止めるべきタイミングです。
まとめ:不安を「安心」に変えるために
犬や猫は、不調を隠す天才です。そしてがんは、静かに、確実に体を蝕みます。
「痛がらないから安心」ではなく、「痛くない今のうちに、正体を確認してあげよう」。その一歩が、愛犬・愛猫の命を救う決定打になります。
「良性で良かったね」という確認のために、まずは診察室のドアを叩いてください。獣医師として、その不安にしっかりとお答えします。
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獣医師 圓尾真理
獣医師 圓尾拓也
日本獣医がん学会 腫瘍科認定医1種(I種)
放射線取扱主任者1種
博士(獣医学)
エビデンスにもとづいた情報発信に努めます。
