犬の乳腺腫瘍 良性・悪性の見分け方と“手術を急ぐべきケース”

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

犬の乳腺にしこりを見つけたとき、「良性か悪性か」は誰もが気になります。ただ、見た目や触った感触だけで判断することはできません。

犬の乳腺腫瘍はどれくらい悪性なのか

犬の乳腺腫瘍は、約半数が悪性とされています。つまり、良性のこともあれば悪性のこともあり、「見た目だけではどちらとも言えない」のが現実です。さらに重要なのは、悪性であっても初期は見た目が穏やかで、触った感じも悪くないことがある点です。

「見分け方」はあるのか

「柔らかければ大丈夫ですか」「動けば良性ですか」といったご質問は非常に多いのですが、結論としては見分けることはできません。柔らかくてよく動くしこりでも悪性のことはありますし、小さいから安心とも限りません。これらはあくまで“ヒント”にはなりますが、判断材料としては不十分です。

判断のポイントは「変化」と「経過」

重要なのは、そのしこりがどう変わっているかです。

・短期間で大きくなっている
・数が増えてきている
・硬さが変わってきた
・皮膚とくっついて動きにくくなっている

こうした変化がある場合には、より積極的な対応が必要になります。また、表面がただれてきたり出血している場合は、進行している可能性が高く、早めの処置が望まれます。

急速に進行する「炎症性乳がん」という例外

ここで知っておいていただきたい、例外的に進行が非常に速いタイプがあります。それが「炎症性乳がん(炎症性乳腺癌)」です。このタイプでは

・短期間で急激に腫れる
・皮膚が赤くなる
・痛みを伴う
・しこりというより“板状に広がる”ような変化
・皮膚がむくんだり硬くなる

といった特徴が見られます。一見すると乳腺炎や皮膚炎に似ていますが、実際には腫瘍細胞がリンパ管内に広がることでリンパの流れが妨げられている状態です。そのため抗炎症剤では改善せず、通常の乳腺腫瘍とは全く異なる対応が必要になります。また、この段階では外科的に取りきることが難しいことが多い。  

したがって、「急に腫れてきた」「赤みが出てきた」「触ると痛がる」といった変化がある場合は、様子見ではなく早めの評価が重要です。

手術を急ぐべきケース

臨床的に見て、特に早めの対応を検討すべきなのは「明らかに大きくなっている」場合です。数週間~数ヶ月で変化している場合、腫瘍の性質だけでなく手術の難易度にも影響します。

また、大きさが2cmを超えてくると予後に影響する可能性があることも知られており、小さいうちの対応が有利とされます。さらに、複数のしこりがある場合や増えてきている場合には、部分的な対応ではなく全体を見た治療戦略が必要になることもあります。

様子見が選択されることもある

一方で、すべてのケースで即手術になるわけではありません。年齢や体力、併存疾患とのバランスを考慮し、あえて経過観察を選ぶこともあります。ただしこの場合も「放置」ではなく、変化を前提に評価していくことが重要です。

検査で何がわかるのか

診断の過程では細胞診が行われることがありますが、乳腺腫瘍ではこれだけで確定できないことも少なくありません。最終的には、摘出した組織の病理検査によって「良性か悪性か」「悪性度」が明らかになります。つまり、乳腺腫瘍は「取ってみて初めてわかる部分がある腫瘍」です。

なぜ早めの対応が重要なのか

乳腺腫瘍は、大きくなるほど条件が悪くなる傾向があります。腫瘍が広がることで完全切除が難しくなったり、転移のリスクが高くなるためです。逆に、小さいうちであれば比較的シンプルな手術で済むケースも多くなります。

受診の目安

しこりを見つけた時点で、一度評価を受けておくことは決して早すぎることではありません。特に「大きくなっていると感じる」「数が増えている」「出血やただれがある」といった場合には、早めの受診が安心です。「様子を見ていいのか迷う」段階こそ、相談するタイミングです。

まとめ

犬の乳腺腫瘍は、良性と悪性が混在するため判断が難しい腫瘍です。見た目や触った感触だけで判断することはできず、「変化」と「経過」を軸に評価することが重要になります。小さいうちの対応がその後の選択肢に影響することも多いため、迷った段階で一度評価を受けておくことが結果的に安心につながります。

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