犬の甲状腺がん:首の「小さなしこり」を軽視してはいけない理由

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

ワンちゃんの喉もとを触ったとき、コロコロとした硬い塊に触れたことはありませんか?もしそれが甲状腺のあたり(喉仏のすぐ下あたり)にあるなら、一刻も早い検査が必要です。犬の甲状腺腫瘍は、そのほとんどが悪性であり、周囲の組織へ深く入り込んだり、肺やリンパ節へ転移したりする性質が非常に強いためです。

1. 甲状腺がんの特徴と「気づき」のサイン

甲状腺は、喉の気管の両脇にある小さな臓器です。甲状腺とその表面の上皮小体は内分泌器官でホルモンを分泌しています。犬の甲状腺がんはホルモン分泌機能がないことが多く、ホルモン異常はありません。しかし、ここにがんができると、以下のような症状が現れます。

首のしこり: 最も多いサインです。通常は痛みはなく、石のように硬いことが多いのが特徴です。
呼吸の異常: 腫瘍が気管を圧迫すると、呼吸が荒くなったり、ゼーゼーという音が混じったりします。
声の変化: 吠え声がかすれる、低くなるなどの変化が出ることがあります。
飲み込みにくさ: 食道が圧迫され、食べ物を飲み込む際に苦労したり、吐き戻したりします。

2. 診断のポイント:「動く」か「動かないか」

診断において最も重要なのは、「その腫瘍が周囲の組織に固着しているかどうか」です。

可動性がある場合: 手動でしこりが動くなら、手術で完全切除できる可能性が高く、予後は良好です。
固着している場合: 周囲の血管や神経に食い込んでいる可能性があり、手術の難易度が上がります。

確定診断には、細い針を刺して細胞を採る「細胞診(FNA)」や、血管との位置関係を把握するための「CT検査」が不可欠です。

3. 3つの武器

甲状腺がんは、その子の状態(腫瘍の大きさと固着の程度)によって、治療方針を柔軟に変える必要があります。

① 外科手術:第一選択の「根本治療」

腫瘍が周囲の組織に癒着しておらず、動かせる状態であれば、手術による完全切除が最も推奨されます。

メリット: マージン不要で完全に取れれば、それだけで長期生存(数年以上)が期待できます。
リスク: 甲状腺のすぐ裏には「反回神経(声を司る)」や「大きな頸静脈・頸動脈」があるため、非常に繊細な外科テクニックが求められます。

両側の場合、両側を取ると甲状腺ホルモンと上皮小体ホルモンの両者の補充が必要となるため、急速に大きくなる方を先に切除して反対側の大きさで様子を見ることがあります。

② 放射線治療:「切れない」場合の強力な選択肢

腫瘍が大きすぎたり、重要な血管を巻き込んでいて手術が不可能な場合に、放射線治療が極めて有効な武器となります。

効果: 甲状腺がんは放射線に対する感受性が比較的高く、照射によって腫瘍を大幅に縮小させ、呼吸の苦しさなどを緩和することが可能です。
併用療法: 手術で取りきれなかった微小な「残りカス」を叩くために、術後に行うこともあります。

③ 内科的治療(抗がん剤・分子標的薬)

遠隔転移(特に肺)が見られる場合や、手術・放射線が適応外の場合に選択します。

分子標的薬(トセラニブなど): 近年、甲状腺がんに対しても一定の効果を示すことが分かってきており、進行を遅らせるための有力な選択肢となっています。

まとめ:早期発見が「完治」への分かれ道

犬の甲状腺がんは、「見つけたときに動くかどうか」で、その後の運命が大きく変わります。「まだ小さいから」「痛がっていないから」と様子を見るのは、この病気においては最も危険な判断です。
首に少しでも違和感を感じたら、すぐに腫瘍科の専門外診を受けてください。CT検査による正確なステージングと、外科・放射線を組み合わせた最適な治療プランを立てることで、たとえ悪性であっても、元通りの穏やかな生活を取り戻せるチャンスは十分にあります。

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