前の記事では、70kgの成人に必要な水分をすべて生理食塩水で補うと、NaやClをかなり多く入れることになると考えました。では、入院中に食事や飲水ができない場合、どんな輸液を使えばよいのでしょうか。
ここでは、維持輸液の考え方を単純化してみます。
執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
維持輸液は何を補っている?
健康な人や犬猫でも、毎日、尿・便・呼吸などから水分を失っています。そして失われるのは水だけではありません。尿や便にはNaやKなどの電解質も含まれます。
そのため維持輸液では、単に水を入れるのではなく、毎日失われる水と電解質を補うという考え方をします。少し乱暴に言えば、「オシッコやうんこなどで失ったものを補う輸液」と考えると分かりやすいかもしれません。
なお、ここでは分かりやすく「外科輸液」「維持輸液」と呼んでいますが、実際には診療科で分けるのではなく、低血容量の補正なのか、脱水の補正なのか、日常的な維持なのかという目的によって輸液を選びます。
必要なNaだけ入れて、残りを水にすればいい?
先ほどの70kg成人なら、維持水分量は約2L、Naは約70mEq/dayが一つの目安でした。生理食塩水500mLにはNaが77mEq入っているので、「生食500mLと、残り1.5Lを水にすればよいのでは?」と考えられます。
しかし、水をそのまま静脈内に入れることはできません。
そこで登場するのがブドウ糖です。
水を入れるためにブドウ糖を使う
5%ブドウ糖液は、バッグの中では約252mOsm/Lの浸透圧があり、静脈内に投与できる製剤です。ところが体内に入ると、ブドウ糖は細胞に取り込まれたり代謝されたりします。その結果、残った水はfree waterに近い働きをして、血管内だけでなく細胞外液、さらに細胞内へと分布します。
つまり、5%ブドウ糖液は「バッグの中では静脈から投与できる浸透圧を持つけれど、体内では水を補う性格が強くなる」という少し不思議な輸液です。
カリウムも毎日失われる
さらに忘れてはいけないのがKです。Kは主に尿から毎日排泄されています。食事がとれない状態でKを含まない輸液だけを続ければ、低K血症につながることがあります。
人の維持輸液ではKも約1mmol/kg/dayが一つの目安とされます。犬でも、AAHAでは血清Kが正常範囲にある10kg犬に60mL/kg/dayの輸液を行う例で、Kを20mEq/L添加すると1日約12mEqになります。ただし、実際のK投与量は血清K、腎機能、尿量などを確認して調整します。
人と犬の維持輸液は意外に似ている
ここで面白いのが、実際の維持輸液剤の組成です。
日本で人に使用されるソルデム3Aは、1LあたりNa 35mEq、K 20mEqです。
一方、AAHAが犬猫の維持輸液として挙げているPlasma-Lyte 56やNormosol-Mは、Na 40mEq/L、K 13mEq/Lです。
人と犬では体の大きさは大きく違いますが、維持輸液のNa濃度は意外に近いことが分かります。これは、維持輸液が「血漿の組成をそのまま再現する液体」ではなく、毎日失われる水と電解質を補う目的で作られているからです。
維持輸液を手術中に使ったら?
「それなら維持輸液を手術中にも使えば、一本で済むのでは?」と思うかもしれません。
しかし、維持輸液はNa濃度が低く、free waterの割合が多い低張性の輸液です。ブドウ糖を含む場合、ブドウ糖が利用された後の水は細胞内にも移動します。そのため、血管内容量を増やす目的には向きません。
AAHAでも、血管内容量を増やす必要がある場合には等張性のreplacement fluidを使用するとしています。
外科輸液と維持輸液は目的が違う
輸液剤は、どれも同じ「水」ではありません。
外科・麻酔時や低血容量の補正では、細胞外液や循環を支えるために、血漿に近いNa濃度を持つ等張晶質液を使うという考え方があります。
一方、維持輸液では、尿・便・呼吸などで毎日失われる水と電解質を補うため、Naを少なくし、free waterを多くし、必要に応じてKなども補うという考え方になります。
輸液を理解するときは、「何mL入れるか」だけでなく、どこの水を、何の目的で、どんな組成で補いたいのかを考えると分かりやすくなります。
輸液は単なる水分補給ではありません。体液のどの区画を補いたいのかを考えることが、輸液剤を選ぶ出発点になります。
▼ ひとつ前から読む
→ 生理食塩水を1日分入れるとどうなる?
▼ 犬猫の輸液について最初から読む
→ 犬猫の輸液まとめ|外科輸液・生理食塩水・維持輸液の考え方
