P糖タンパクとは?犬の薬物中毒と抗がん剤耐性をつなぐ仕組み

コリーではP糖タンパクがうまく働かないため、高用量のイベルメクチンが脳へ入り込み、中毒を起こしやすくなります。
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ところが、がん細胞では反対です。P糖タンパクが増えることで抗がん剤を細胞の外へ追い出し、薬が効きにくくなることがあります。

少なすぎると薬が効きすぎ、多すぎると薬が効かない。なかなか興味深いタンパク質です。

執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

P糖タンパクは細胞の「排出ポンプ」

P糖タンパクはABCB1遺伝子によって作られる膜タンパクで、ATPのエネルギーを使って、さまざまな物質を細胞の外へ排出します。

特に重要なのが栄養を吸収する腸でのブロック、肝臓や腎臓での排泄、そして血液脳関でブロックです。

植物やカビとの戦いから生まれた?

動物は進化の過程で、食べ物と一緒にさまざまな毒を取り込んできました。植物にはアルカロイドなどの二次代謝産物があり、カビが生えた食物にはカビ毒が含まれることもあります。

植物は食べられないための化学物質を作り、動物側はそれを解毒・排泄する仕組みを発達させてきた、と考えると分かりやすいでしょう。

P糖タンパクもこうした植物毒やカビ毒から体を守るための仕組みの一つではないかと思っています。

グレープフルーツと薬の飲み合わせにも関係する?

「薬を外へ追い出す仕組み」と聞くと、グレープフルーツと薬の飲み合わせを思い出す人もいるかもしれません。

グレープフルーツによる薬物相互作用で最も重要なのは、腸管の薬物代謝酵素CYP3A4を阻害する作用です。そのため、一部の薬では血中濃度が高くなることがあります。

一方、グレープフルーツの成分が腸管のP糖タンパクを阻害することも実験的には報告されています。P糖タンパクが抑えられると、本来なら腸管内へ戻される薬が吸収されやすくなる可能性があります。

コリーでは「守れない」から中毒になる

ABCB1変異犬ではP糖タンパクが十分に働きません。

そのため、本来なら腸でブロックされるはずのイベルメクチンが血液に入り、肝臓や腎臓で排泄されません。そして、血液脳関門で追い返されるはずであったイベルメクチンが脳内へ入ります。

つまり、イベルメクチンそのものがコリーだけに特殊な毒なのではありません。

薬を脳から追い出す仕組みが違うのです。

がん細胞では逆に「追い出しすぎる」

さらに面白いことに、P糖タンパクは抗がん剤に耐性を示すがん細胞の研究から知られるようになったタンパクです。

がん細胞がP糖タンパクを増やすと、ドキソルビシンやビンクリスチンなどの抗がん剤を細胞外へ排出してしまいます。
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すると、一つの薬だけではなく複数の薬が効きにくくなる「多剤耐性」が起こります。犬のリンパ腫でも、P糖タンパクの増加は抗がん剤耐性の重要な仕組みの一つとして研究されています。

コリーではP糖タンパクが働かないため薬が効きすぎる。がん細胞ではP糖タンパクが働きすぎるため薬が効かなくなる。

同じ仕組みを反対側から見ると、薬物中毒と抗がん剤耐性がつながってきます。

では、抗がん剤はそもそもいつ誕生し、薬剤耐性にどう対抗してきたのでしょうか。

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薬はなぜ効き、なぜ効かなくなる?イベルメクチンから抗がん剤耐性まで

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