脳腫瘍:愛犬・愛猫の「自分らしさ」を守るために

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

脳腫瘍は、かつては診断が非常に難しい病気でした。現在、MRI撮影により診断が容易になりました。また、放射線治療の進歩により、発症前のような穏やかな日常を取り戻せるケースも増えています。

1. 脳腫瘍が引き起こす「サイン」:症状について

脳に腫瘍ができると、場所や大きさに応じてさまざまな症状が現れます。

けいれん発作: 最も代表的な症状です。成犬・成猫になってから初めての発作が起きた場合、脳腫瘍を強く疑う必要があります。
性格や行動の変化: 「急に怒りっぽくなった」「ぼーっとしている時間が増えた」など、認知症と間違われやすい変化が起こります。
運動機能の障害: まっすぐ歩けず斜めに歩く(捻転斜頸)、旋回運動、足のふらつきなどが現れます。
視力障害: 壁にぶつかる、段差を怖がるなど、目が見えにくくなることがあります。

これらの症状は、腫瘍そのものの圧迫だけでなく、周囲の「脳浮腫(脳のむくみ)」によっても悪化します。

2. 見えない敵を特定する:診断について

脳は頭蓋骨に守られているため、血液検査やレントゲンでは異常を見つけることができません。

MRI検査(最重要): 腫瘍の場所、大きさ、種類、周囲の浮腫の程度を描出します。
CT検査:MRIが無理でも、診断できることがあります。また、骨への影響確認や、放射線治療の計画立案に使用します。
神経学的検査: 反射や動きを観察し、どの部位にダメージがあるかを推測します。

3. 治療における「麻酔」の考え方

MRI検査や放射線治療、手術には「全身麻酔」が不可欠です。脳腫瘍がある子は脳圧が高まっているため、通常の麻酔よりも慎重な管理が求められます。

リスクの管理: 麻酔前には入念な検査を行い、個々の状態に合わせた薬剤選択と、モニター管理で安全性を最大限に高めます。
麻酔をかける意義: 検査や治療によって得られる「苦痛の緩和」というメリットが、麻酔のリスクを上回ると判断される場合に実施します。

4. 今できる最善の選択:治療について

治療は「腫瘍の抑制」と「苦痛の除去」を目的として行います。

放射線治療(治療の柱)

外科手術が難しい深部や、手術で取りきれなかった組織に対し、ピンポイントで放射線治療を行います。

効果: 腫瘍を縮小させ、脳圧を下げることで、けいれんや麻痺を改善させます。
放射線障害(副作用): 治療直後の脱毛や皮膚の赤み(急性障害)、数ヶ月~数年後の脳組織への影響(晩期障害)のリスクはありますが、最新の照射技術により、発生率は以前より大幅に低減されています。

外科手術とそのデメリット

腫瘍が表面に近い場合、物理的に摘出することで即座に脳圧を下げる効果があります。しかし、外科手術には以下のデメリットも考慮する必要があります。

侵襲性の高さ: 頭蓋骨を開けるため、身体への負担が大きく、術後の回復に時間を要します。
脳組織の損傷: 腫瘍の境界が不明瞭な場合、正常な脳組織を傷つけ、新たな神経症状(麻痺や性格変化など)が出るリスクがあります。
完全摘出の難しさ: 目に見える腫瘍を取っても、細胞レベルで残るため、多くの場合で術後の放射線治療が必要になります。

内科療法(症状のコントロール)

抗てんかん薬: けいれん発作の頻度と強度を抑えます。
ステロイド剤: 脳のむくみ(浮腫)を取り除き、症状を改善させます。
脳圧降下薬: 高まった脳圧を速やかに下げ、意識低下や激しい痛みを和らげるレスキューとして使用します。

5. 共に過ごせる時間:予後について

未治療の場合: 診断から数週間~数ヶ月と、厳しい経過をたどることが多いのが現状です。
治療を行った場合: 放射線治療を適切に行うことで、半年~2年の維持が期待できます。

放射線治療の最大の目的は、単なる延命ではなく、「家族を認識し、穏やかに過ごせる時間を守る(QOLの維持)」ことにあります。

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