腫瘍トップ > その他 > 保健所の子犬・子猫と向き合った日々
執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
保健所から始まった活動
30年ほど前、私は子犬や子猫の避妊・去勢手術に力を注いでいました。
当時は兵庫県の片田舎におり、保健所から引き取った子犬・子猫に手術を行い、新しい飼い主へ譲渡する活動を続けていました。これまでに、おそらく100頭以上を送り出してきたと思います。
もともとはどこかの家庭で生まれた、ごく普通の命です。
しかし、さまざまな事情の中で行き場を失い、私たちの前に現れます。
その命を次につなぐために、避妊・去勢手術は欠かせないものでした。

しこりについて全体像を知りたい方は【腫瘍トップ】をご覧ください。
愛護団体との関わりと現場の広がり
その頃、雑誌「愛犬の友」の取材を受けたことをきっかけに、ライターの紹介で「ライフボート」という動物愛護団体と関わるようになりました。
代表の弓長さんから「ライフボート動物病院」の立ち上げを相談され、麻酔器やオートクレーブを寄付し、数年間にわたり子猫の避妊・去勢手術を担当しました。当時、大学では非常勤として勤務しており、その合間の活動でした。
保健所だけでなく、保護団体の現場でも同じように、「次の命につなぐ医療」としての避妊・去勢手術が行われていました。
「増やさないための医療」だった時代
あの時代、避妊・去勢手術は「不幸な命を増やさないため」に欠かせない医療でした。
子犬の体重は2kg前後、子猫は500gほどだった記憶があります。今振り返ると非常に小さな体ですが、それでも手術を行わざるを得ない背景がありました。
望まれない繁殖を防ぐことが最も重要であり、早期に手術を行うことが強く推奨されていました。乳腺腫瘍の予防といった医学的な意義もありましたが、それ以上に社会的な役割が大きかったように思います。
避妊・去勢手術の考え方はどう変わったか
一方で、現在は状況が大きく変わっています。避妊・去勢の目的そのものは変わりませんが、「いつ行うべきか」という点については、より慎重に考えられるようになりました。
特に近年は、骨格の成長や関節疾患、ホルモンの影響、さらには一部の腫瘍の発生リスクなども含めて、総合的に判断する必要があると考えられています。犬種や体格によっても適切な時期は異なり、「生後6ヶ月で一律に行う」という時代ではなくなってきました。
治療の選択や考え方の全体像は
→【腫瘍の治療まとめ】
現在の避妊・去勢手術の考え方(小型犬・大型犬の違い)
現在の一般的な考え方としては、以下のような傾向があります。
・小型犬:従来通り、生後6~10ヶ月前後での手術が検討されることが多い
・大型犬・超大型犬:骨格や関節の発達を考慮し、1歳~1歳半以降で検討されることが多い
猫については、望まれない繁殖の防止という観点から、比較的早期の手術が現在でも推奨されるケースが多くなっています。
ただし、これはあくまで目安であり、すべての動物に当てはまる「正解」ではありません。
腫瘍のリスク評価や検査については
→【しこり・腫瘍の検査方法まとめ】
今も変わらないこと、変わったこと
避妊・去勢手術は、今もなお重要な医療であることに変わりはありません。
ただしその意味は、「増やさないための手術」から、「その子にとって最適なタイミングを考えて行う手術」へと変化してきています。詳しくは【大型犬の避妊・去勢は「1歳半」まで待つべき?】をご覧ください。
これまで現場で見てきた経験から言えるのは、正解は一つではないということです。
この記事を書くにあたり、柏市のライフボートの現在の活動を調べてみると、「動物からの感謝状 審査員特別賞(公益財団法人どうぶつ基金)」を受賞されていました。長年にわたり活動を続けておられる皆さんには、ただ頭が下がる思いです。
一方で、「愛犬の友」はすでに廃刊となり、弓長さんの消息もわかりません。時代は確実に移り変わっているのだと感じます。

これからの避妊・去勢手術
それぞれの動物の体格や生活環境、そしてご家族の考え方に合わせて最適な選択をしていくこと。それが、これからの避妊・去勢手術のあり方だと感じています。
どうするか迷われている場合は、診療の流れや考え方をまとめています。
→【はじめての方へ(診療の流れとご案内)】をご覧ください
▼ 避妊・去勢と腫瘍の関係について詳しく知りたい方へ
→【避妊去勢の時期と腫瘍の発生率】
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→【犬のしこりは様子見でいい?】
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