猫の口内炎|抜歯はかわいそう?

猫の口内炎に「歯を抜く」という治療があると知ったとき、私自身も驚きました。治るかどうか以前に、「そんなことを本当にしていいのだろうか」と感じたのを覚えています。

しかし、猫の慢性歯肉口内炎では、歯を残すことより、口の痛みを減らすことを優先した方がよい場合があります。

執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

猫の口内炎はかなり痛い

慢性歯肉口内炎では、歯ぐきだけでなく口の奥まで強い炎症が起こります。食べたそうなのに食べられない、食べ物を口から落とす、よだれや口臭が増える、といった症状がみられます。

重症になると、食べることそのものが痛みになります。

なお、口の赤み、出血、よだれ、食べにくさは口内炎だけでなく、口腔内腫瘍などでもみられます。診断をつけてから治療方法を考えることが大切です。

なぜ歯を抜くの?

この病気は、単純に「悪い歯がある病気」ではありません。歯垢や口腔内細菌などに対して免疫が強く反応し、炎症が続いていると考えられています。

そこで歯を抜き、歯垢が付着する場所を減らすことで炎症の刺激を少なくします。つまり、悪い歯を抜くというより、口内炎そのものを改善するための抜歯です。

スケーリングではダメ?

歯石や歯垢を除去するスケーリングにも効果はあります。特に歯周病や軽い歯肉炎では重要な治療です。

ただし、慢性歯肉口内炎では、きれいにしても歯が残っていれば再び歯垢が付着します。そのため、一時的に改善しても再燃することがあり、スケーリングや薬で十分にコントロールできない場合には抜歯を検討します。

全部の歯を抜くの?

必ずしも最初からすべての歯を抜くわけではありません。奥歯のみを抜く部分抜歯と、犬歯・切歯まで含めて抜く全顎抜歯があります。

犬歯の周囲に強い炎症や歯周病、歯の吸収病巣などがなければ、犬歯を残せることもあります。一方、部分的な抜歯をしても口内炎が続く場合には、残した歯を追加で抜くことがあります。

抜歯は全身麻酔下で行います。麻酔について心配な場合は、ASA-PS分類と麻酔リスクの考え方も参考にしてください。

抜歯するとどれくらい改善する?

抜歯をすれば必ず治るわけではありませんが、約3分の2の猫で大きな改善または寛解が期待できます。

95頭を調べた研究では、約39%で大きく改善し、約28%では口内炎がほぼ完全に治まりました。一方で、抜歯後も炎症が残り、薬による治療が必要になる猫もいます。

歯がなくても大丈夫?

野生で獲物を捕らえて食べる猫にとって、歯はとても重要です。しかし、室内で暮らし、食事を与えてもらえる猫では、歯の重要性は相対的に低くなります。

重い口内炎では、歯はあるけれど、痛くて食べられない状態になっています。抜歯によって炎症と痛みが改善すれば、歯が少なくなっても、以前より食べやすくなる猫は珍しくありません。

抜歯はかわいそう?

歯を抜くことだけを見ると、かわいそうに感じるかもしれません。しかし、食べるたびに強い痛みが続くのであれば、歯を残すことが必ずしもその猫のためになるとは限りません。

大切なのは、歯が何本残っているかではなく、痛みなく食べ、快適に暮らせているかです。

慢性歯肉口内炎では、歯を失うことより、口の痛みを減らすことの方が大きな意味を持つことがあります。

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