がんの手術において、最も大切なのは「完全切除」です。しかし、悪性腫瘍はまるで「紙に落としたインク」のように、周囲の正常な組織へじわじわと染み込んで(浸潤して)いきます。
黒いインクの塊だけでなく、染み込んだ部分まで取り除こうとすると、大切な正常組織まで失われ、術後の生活に支障が出てしまうことがあります。
執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
解決策:AO-PDTという選択肢
「染み込んだ腫瘍細胞だけを狙い撃ちできないか?」
その問いへの答えの一つが、アクリジンオレンジ光線力学療法(AO-PDT)です。
• 仕組み: 「アクリジンオレンジ」という物質を、がんに取り込ませます。そこに特殊な「青い光」を当てることで、がん細胞の中だけで活性酸素を発生させ、正常組織を守りながら腫瘍細胞だけを死滅させます。
・特徴: 青い光は組織の奥までは届きません。そのため、まず手術で腫瘍を可能な限り切除し、その直後に残った組織へ処置を施すことで、取り切れなかった微細ながん細胞を叩きます。

手順(楠崎先生の手順)
1. できる限り腫瘍を取り除きます。
2. 手術野にアクリジンオレンジ溶液を5分浸す。
3. 室内を暗くして青い光を当て、残った細胞が光る。
4. 光った部分をさらに念入りに取り除く。
5. 青い光を当て、残った腫瘍細胞を殺す
鼻腔腫瘍における実績
特に、構造が複雑で完全切除が極めて困難とされる「鼻腔腫瘍」において、私はこの治療の有効性を実感してきました。通常、鼻腔腫瘍の手術は「症状を和らげるため(緩和)」と言われることが多いですが、このAO-PDTを併用することで、再発しても2年生存の可能性が見えてきました(38頭の結果です)。
※鼻の上からアプローチし、腫瘍切除後に5分間の浸漬と10分間の光照射を行う精密な手技を実施しています。
鼻腔腫瘍の第一選択は放射線治療と考えられていますが、早期発見の場合にはAO-PDTも良い方法です。
メッセージ
この手技は、猫のワクチン接種部位肉腫や皮膚腫瘍など、様々なケースに適応可能です。「もう手がない」と言われた症例でも、工夫次第で道が開けることがあります。一緒に考えましょう。
FAQ
AO-PDTはどのような腫瘍でも受けられますか?
理論的には、悪性腫瘍では可能ですが、光が当たらないといけませんので術野が狭い、視野が取れない場所では難しいと思います。これまでの経験や論文から、皮膚の腫瘍、鼻腔腫瘍、猫のワクチン接種部位肉腫などで有効性が確認されています。
この治療による副作用はありますか?
アクリジンオレンジは選択的に腫瘍に取り込まれるため、正常組織へのダメージを最小限に抑えられます。光照射も術野に限定して行うため、全身的な副作用はほとんどありません。
手術時間は通常の手術より長くなりますか?
溶液の浸漬や光照射のステップが加わるため、通常の手術よりも30分~1時間ほどお時間をいただく場合があります。例えば鼻腔腫瘍のような難易度の高い症例では、全体で2時間を超えることもありますが、その分、再発リスクを抑えるもしくは遅らせることが可能です。
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AO-PDTの鼻腔腫瘍論文1