抗がん剤は「ボクシング」か「ダンス」か。動物に優しい投与設計

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

結論

抗がん剤には、ボクシングのように強く攻める使い方と、ダンスのように寄り添いながら続ける使い方があります。どんな時間を過ごしてほしいのか。そこから治療を考えることが、最も自然な流れになります。

1. 「3+3」という科学的な守り

抗がん剤の量は、適当に決めているわけではありません。人も動物も「3+3デザイン」というルールによって決めることが多い。

3+3デザインとは?
3頭に投与して問題なければ増量し、2頭でグレード3以上の副作用(入院が必要なレベル)が出ると、それより低い投与量を「標準投与量」とするルールです。
この方法で、分子標的薬のリン酸トセラニブとTS-1というお薬の投与量を決めたことがあります。これにより安全にこれらの薬を併用することが可能となりました。

これが世界中の専門家が共有している「安全の最低ライン」であり、人も動物も同じです。なのに、人の抗がん剤は辛いと聞き、動物ではあまり経験しません。同じ基準で量を決めていても、「運用」で決定的な違いが生じるのです。

2. 人のがん治療は「ボクシング」

人間の目的は「完治(キュア)」です。人のがん治療において、副作用に耐えてパンチを浴びながらリングに立ち続けるのは患者さん本人です。つまり、患者さん自身がボクサー(主役)として完治という勝利のために、12ラウンド戦い抜く覚悟が求められます。

副作用という強敵に対し、医師は「セコンド」として控えます。白血球が下がれば薬を足し、貧血なら輸血をし、倒れそうになっても(Grade 3が出ても)、「勝つ(治す)」ためにリングに押し戻す。それが人における抗がん剤治療なのです。

3. 動物のがん治療は「ダンス」

一方、動物の目的は「穏やかな日常(QOL)」を保つことにあります。

動物のがん治療においてダンスのステップ(投与量)を決め、リズムをリードするのはパートナーの獣医師です。動物は戦うボクサーではなく、エスコートされるパートナー。転ばないように、全責任を持ってステップ(投与量)をリードします。

動物が抗がん剤で少しでもつまずきそうになったら、転ぶ(Grade 3)前にそっと支え、ステップ(投与量)を緩める。つまり「無理をさせない、でも止まらない」。このリズムを保つのが、動物では必要となるのです。

まとめ

「抗がん剤=苦しい」というイメージは、ボクシングのイメージかもしれません。でも、私たちの動物病院で目指すのは、最後まで笑顔で踊り続けられる治療です。

辛くない治療が望ましいと考えます。

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