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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
「5ミリくらいの小さなしこりだったのに、手術の傷跡の大きさに驚きました」
診察室でよくいただく言葉です。がん(悪性腫瘍)の手術において、目に見える「しこり」だけを取り除くことは、本当の意味での「治療」にはなりません。
1. がんは「根を張る」生き物
がん細胞は、目に見える塊(しこり)の周囲に、まるで木の根のように、ミクロの単位で入り込んでいます。
• 目に見える部分: 草の茎、葉
• 目に見えない部分: 土の下の根っこ
この「目に見えない根っこ」を残してしまうと、たとえ手術が成功したように見えても、数ヶ月後に同じ場所から再発してしまいます。
2. 「マージン」とは、安全のための「余白」
手術でしこりを取り囲むように、周囲の健康な組織を含めて切除する範囲を 「マージン」 と呼びます。根っこを残すとまた生えますので、土ごと掘り起こさないといけないのです。
腫瘍の種類によって、必要なマージンは決まっています。
• 良性腫瘍: 塊だけを取ればOK(マージンはほぼ不要)
• 悪性腫瘍(がん): 周囲1~3 cm、さらに深い層(筋肉の膜など)まで含めて切除が必要
「大きく切る」のは、意地悪をしているわけではなく、「1回の地道な手術で、がん細胞を1つ残らず取り去るため」 の科学的な根拠に基づいた判断なのです。
3. 「1回目の手術」が最大のチャンス
がん治療において、最初の手術で取りきれるかどうかが、その後の寿命を大きく左右します。
一度中途半端に切ると根が残り、また生えてきます。腫瘍が再発するとと、がん細胞が散らばったり、周囲の構造が崩れたりして、2回目の手術はさらに広範囲に切除する必要があり、難易度の高いものになってしまいます。
「最初から、攻めるべきところはしっかり攻める」というのが、愛犬・愛猫の命を守るために私たちが大切にしているルールです。
獣医師からのアドバイス
もちろん、顔や足先など、どうしても大きく切ることが難しい場所もあります。その場合は、放射線治療を組み合わせることで、あえて「機能温存」を優先した計画を立てることもあります。
なぜこの切除範囲なのか、不安に思ったら、遠慮なく聞いてください。納得して手術に送り出してあげることが、ペットにとっても一番の安心につながります。
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