安楽死という選択肢:最期まで「その子らしく」あるためにお伝えしたいこと

がん治療の終末期において、避けては通れないテーマが「安楽死」です。この言葉を口にすることに、強い罪悪感や後ろめたさを感じる飼い主様は少なくありません。しかし、私たちは安楽死を「諦め」ではなく、「治療を続けても取り除くことのできない苦痛から解放するための、一つの治療選択」だと考えています。

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

1. 決断の基準は「QOL(生活の質)」

安楽死を考える最大のポイントは、「QOL(生活の質)」です。

以下の状態が続いていないか、客観的に見つめる必要があります。
痛みや苦しさ: 強い鎮痛剤を使っても、呼吸が苦しそう、あるいは痛みで眠れない。
食事の喜び: 自力で食べられず、強制給餌も本人の負担になっている。
移動や排泄: 自力で立ち上がれず、排泄のたびに強い苦痛や不快感がある。
幸せな瞬間: 飼い主様を見る、撫でられる、好きな場所で眠る、食事を楽しむといった「良い時間」が少なくなり、「苦しい時間」の方が明らかに多くなっている。
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2. 「安楽死」は負けではない

「もっと何かできたのではないか」「自分たちが殺してしまうのではないか」そう自分を責めないでください。安楽死の目的は、死なせることではなく「これ以上の苦しみを止めてあげること」にあります。延命治療が、結果として「死ぬまで苦しませ続けること」になる可能性があります。苦痛を十分に取り除くことができない場合には、穏やかな眠りの中で旅立たせることも、その子をこれ以上苦しませないためにご家族が選べる方法の一つだと思います。
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3. 安楽死の進め方

安楽死では、まず鎮静や麻酔によって深く眠った状態にします。十分に意識がなくなり、苦痛を感じない状態になったことを確認したうえで、最終的なお薬を投与します。
• 深い鎮静や麻酔によって眠ったことを確認し、できるだけ苦痛を感じない状態で行います。
• ご家族が付き添い、声をかけながら、あるいは抱っこしながら見送ることができます。
• 「その時」が来るまで、私たちは飼い主様と対話を重ね、納得のいくタイミングを共に探ります。

4. 安楽死を決断するにあたって

安楽死という言葉が頭をよぎるのは、多くの場合、生活の質(QOL)が大きく低下したときです。その時点では病状がかなり進んでおり、短期間で状態が急変することも少なくありません。これまでの経験では、安楽死について相談されても、ご家族が迷っている間に状態が急変し、そのまま亡くなるケースも少なくありませんでした。十分に考えて決断したとしても、安楽死のあとに「本当にこれでよかったのだろうか」と悩まれる方もいます。だからこそ、状態が切迫する前から、どのような状態になったら安楽死を考えるのかをご家族で話しておくことが大切です。
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まとめ

安楽死は私たち獣医師にとっても辛いことです。若いときには、安楽死した後、しばらくは心が荒れていました。慣れたとはいえ今でも辛いものです。

安楽死は、一度行えば取り消すことのできない決断です。ですから私は、ご家族に迷いがあるうちは、急いで決断する必要はないと思っています。
一方で、強い痛みや呼吸困難など、本人にとって耐え難い苦痛が続いている場合には、「自然に亡くなるまで待つこと」が必ずしも優しい選択とは限りません。

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