犬の精巣腫瘍|未去勢犬・停留精巣で注意したい症状、検査、治療

犬の精巣腫瘍は、去勢手術を受けていない雄犬で見られる腫瘍です。高齢犬に多く、9~11歳前後で診断されることが多いとされています。

精巣腫瘍は、陰嚢の中にある精巣にできることもありますが、特に注意が必要なのは「停留精巣」です。停留精巣とは、本来は陰嚢内に下りるはずの精巣が、腹腔内や鼠径部に残った状態です。

精巣は、体温より少し低い陰嚢内で機能する臓器です。腹腔内に残った精巣は長く高温環境にさらされるため、腫瘍化しやすくなります。停留精巣では、正常な位置にある精巣よりも精巣腫瘍のリスクが高くなるため、若いうちの去勢手術が勧められます。

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

主な精巣腫瘍の種類

犬の精巣腫瘍で多いものには、セルトリ細胞腫、間細胞腫、精上皮腫があります。ひとつだけ発生することもあれば、同じ犬で複数の腫瘍が併発することもあります。

セルトリ細胞腫は、停留精巣と関連が強い腫瘍です。エストロゲンという女性ホルモンに似た作用をもつホルモンを過剰に出すことがあり、全身症状を起こすことがあります。転移することもあり、特に大きくなった腫瘍では注意が必要です。

間細胞腫は、犬の精巣腫瘍の中でも多い腫瘍です。比較的良性の挙動を示すことが多く、無症状で見つかることもあります。去勢手術で摘出すれば、その後は良好に経過することが多いです。

精上皮腫は、精子を作る細胞に由来する腫瘍です。停留精巣で発生しやすく、精巣の腫大として見つかることがあります。多くは去勢手術で治療できますが、進行例ではリンパ節などへの転移に注意します。

よく見られる症状

精巣腫瘍では、まず精巣の左右差、腫れ、硬さの変化に気づくことがあります。陰嚢が片側だけ大きい、精巣が硬い、形がいびつ、痛がる、急に大きくなったという場合は検査が必要です。

腹腔内の停留精巣が腫瘍化した場合、外からは精巣の腫れが分かりません。お腹の中で大きくなり、腹部のしこり、元気消失、食欲低下、嘔吐、腹部膨満などから見つかることがあります。

セルトリ細胞腫では、雌性化徴候が出ることがあります。乳腺が腫れる、左右対称に毛が抜ける、皮膚が薄くなる、色素沈着が出る、反対側の精巣が小さくなる、前立腺炎を起こすなどの変化です。

さらに重要なのが、エストロゲン過剰による骨髄抑制です。骨髄で血液が作られにくくなると、貧血、白血球減少、血小板減少が起こります。歯ぐきが白い、出血しやすい、点状出血がある、ぐったりする、発熱するなどの症状がある場合は、命に関わることがあります。

検査と診断

診断では、まず身体検査で精巣の大きさ、硬さ、左右差を確認します。停留精巣が疑われる場合は、鼠径部や腹部の触診も行います。

腹腔内や鼠径部の精巣を探すには、超音波検査が有用です。腫瘍の大きさ、内部の構造、周囲臓器との関係も確認できます。転移が疑われる場合や、腫瘍が大きい場合には、胸部レントゲン、腹部超音波、CT検査などでリンパ節や肺、肝臓への広がりを調べます。

血液検査も重要です。特にセルトリ細胞腫では、貧血、白血球減少、血小板減少がないかを確認します。骨髄抑制がある場合、手術そのもののリスクも高くなるため、慎重な判断が必要です。

精巣腫瘍では、術前に針を刺して検査するよりも、摘出後に病理組織検査で確定診断することが一般的です。精巣は血流が豊富で、出血や播種のリスクを考える必要があるためです。

治療

精巣腫瘍の基本治療は、両側の精巣を摘出する去勢手術です。片側だけに腫瘍が見えても、反対側にも小さな腫瘍や萎縮があることがあるため、通常は両側を摘出します。

陰嚢内の精巣であれば、一般的な去勢手術で対応できることが多いです。鼠径部や腹腔内にある停留精巣では、精巣の位置によって手術方法が変わります。腹腔内の停留精巣では開腹手術が必要になることがあります。

近年は、症例によって腹腔鏡手術が選択されることもあります。腹腔鏡手術は傷が小さく、術後の痛みが少なく、回復が早いという利点があります。ただし、腫瘍が大きい場合や周囲と癒着している場合は、開腹手術の方が安全なこともあります。

転移がある場合や、骨髄抑制が重い場合は、手術だけでは十分でないことがあります。輸血、抗生剤、造血を支える薬、入院管理などが必要になることがあります。転移例では抗がん剤を検討することもありますが、精巣腫瘍では手術でコントロールできる症例が多く、抗がん剤の役割は症例ごとに判断します。

予防としての去勢手術

精巣腫瘍は、去勢手術によって予防できる病気です。特に停留精巣では、放置すると腫瘍化のリスクが高くなります。

停留精巣は遺伝的な要因が関わると考えられており、繁殖には向きません。生後しばらくしても精巣が陰嚢内に下りてこない場合は、若いうちに摘出を検討します。

若齢期の去勢手術には、精巣腫瘍の予防だけでなく、前立腺肥大、肛門周囲腺腫、会陰ヘルニアなど、男性ホルモンに関係する病気を減らす意味もあります。

もちろん、去勢手術にも麻酔や手術のリスクはあります。そのため、年齢、体格、性格、持病、今後の病気のリスクを考えたうえで、かかりつけの獣医師と相談して決めることが大切です。

まとめ

犬の精巣腫瘍は、未去勢の雄犬、とくに高齢犬や停留精巣のある犬で注意したい病気です。

精巣の腫れだけでなく、脱毛、乳腺の腫れ、皮膚の変化、前立腺の異常、貧血、出血傾向など、全身症状として現れることがあります。特にセルトリ細胞腫による骨髄抑制は命に関わるため、早期発見が重要です。

治療の基本は、両側の精巣摘出です。停留精巣では、腫瘍化する前に予防的に摘出することが最も安全です。

未去勢の雄犬で精巣の左右差がある、片側が大きい、毛が抜ける、乳腺が腫れる、ぐったりしている、停留精巣を指摘されたことがある場合は、早めに動物病院で相談してください。

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