執筆:圓尾 拓也(放射線取扱主任者・獣医学博士)
「愛犬・愛猫ががんと診断され、放射線治療を勧められたけれど、なんだか怖くて踏み出せない…」そんな不安を抱えている飼い主さんは少なくありません。放射線取扱主任者の資格を持つ獣医師の視点から、放射線治療について分かりやすく解説します。
しこりについて全体像を知りたい方は「腫瘍トップ」をご覧ください。
①放射線治療ってなに?
「放射線」と聞くと怖いイメージがあるかもしれませんが、健康診断で受ける「レントゲンのパワーアップ版」だとイメージしてください。
どうやって「がん」をやっつけるの?
放射線の役割は、がん細胞の中にある「設計図(DNA)」を壊すことです。設計図が壊れたがん細胞は、新しく増えることができなくなり、やがて寿命を迎えて消えていきます。

治療のイメージ:ハサミではなく「じわじわ」
手術は「その場で切り取る」治療ですが、放射線は「あてた後、数週間~数ヶ月かけてじわじわと縮めていく」治療です。トカゲの尻尾のようにすぐ切れるのではなく、オタマジャクシの尻尾のように徐々になくなっていくイメージです。すぐ変化が見えないのは不安かもしれませんが、あてた瞬間に「目に見えない魔法」をかけているのです。
痛みはありません
照射中に痛みを感じることは全くありません。ワンちゃん・ネコちゃんは麻酔で寝ているだけですので、苦痛を感じることはないので安心してください。
②どんなときに使うの?
主に「手術が難しい場所」や「手術のバックアップ」として用います。
1. 手術で取り除くのが難しい場所
• 鼻腔内腫瘍: 構造が複雑で、手術が難しい場所です。腺癌、扁平上皮癌、骨肉腫などがあります。
• 脳腫瘍: ダメージを抑えつつピンポイントで狙えます。髄膜腫、グリオーマ、下垂体腫瘍などがあります。
• 口腔内腫瘍: 顎の骨を大きく削る手術を避けたい場合に検討します。悪性黒色腫(メラノーマ)、扁平上皮癌、棘細胞性エナメル上皮腫などがあります。
2. 手術のあとの「仕上げ」
手術で取り切ったつもりでも、目に見えない細胞が残ってしまうこと(マージン+)があります。その「残りカス」を全滅させて再発を防ぎます。軟部組織肉腫、肥満細胞腫の術後照射が有名です。
3. 痛みや苦しさを和らげるため(緩和ケア)
骨の腫瘍による痛みや、大きな腫瘍による出血・圧迫を抑え、穏やかに過ごすためにも非常に有効です。四肢の骨肉腫の疼痛緩和が当てはまります。
③放射線治療の目的は2つ
最初に「何を目指すのか」というゴール設定をしっかり行います。
1. 「根治(こんち)」目的:しっかり治す
がんと正面から戦い、消滅や長期の再発防止を目指します。
• 回数: 週に数回、合計10回以上通う(入院)ことが多い。
• 対象: 体力があり、しっかり治る見込みがある場合(転移しにくい、ステージが軽い、元気な子など)。
2. 「緩和(かんわ)」目的:穏やかに過ごす
苦しみを取り除くことを最優先にします。
• 回数: 週1回を計4回など、通院負担を軽くします。
• 対象: 高齢であったり、完治は難しくても痛みだけは取ってあげたい場合。
3. 【いいとこ取り】少ない回数でしっかり治す(定位照射・手術的照射)
条件が揃えば、少ない回数でピンポイント照射を行う方法もあります(以前は肺の照射で有名でした)。肺や肝臓、脳などで腫瘍が小さい場合に検討することがあります。
④どのくらい効くの?
結論から言うと、3頭中2頭(60~70%)で「がんが小さくなる・成長が止まる」といった効果が見られます。
• がんが消える(完全寛解): 理想的なゴールです。
• がんが小さくなる: 手術ができるサイズまで縮小させることもあります。
• がんの成長が止まる: 「共存」しながら、穏やかな時間を稼ぎます。
QOL(生活の質)の劇的な改善
一番のメリットは、痛みが取れてご飯が食べられるようになるといった元気な姿を取り戻せることです。ただ長生きさせるのではなく、「時間を巻き戻し、苦痛のない時間をプレゼントする」。これがこの治療の本当の価値だと僕は考えています。
⑤心配な副作用について
放射線は、あてた場所だけにしか影響が出ないのが特徴です。
1. 治療中~直後(急性副作用)
• 皮膚の炎症・脱毛: あてた場所が少し赤くなる「日焼け」のようなイメージ。
• 粘膜の炎症: 口の中など、一時的にヒリヒリすることがあります。
• これらは数週間で自然に落ち着きます。
2. 数ヶ月~数年後(晩期副作用)
• 毛色の変化: 黒い毛が白くなって生えてくることがあります。
• 組織の変性: まれに組織が少し硬くなることがあります。
⑥知っておいてほしい「デメリット」
後悔しないために、あえて厳しい現実もお伝えします。
1. 毎回「全身麻酔」が必要です
1ミリのズレも許されないため、毎回短時間の麻酔をかけます。高齢や持病がある子は、麻酔のあと数日は元気がない、下痢・嘔吐、水を飲まないなどの症状が出ることがあり、手厚いサポートが必要になる場合があります。
2. 通院回数が多い
効果を最大にするには、4~6週間ほど根気強い通院が必要になることがあります。
3. 費用が高額になりやすい
特殊な装置(5~10億円)と専門スタッフ(放射線取扱主任者)が必要なため、費用はどうしても高くなります。リニアックという人と同じ機械を使うと合計で100~200万円になります。オルソボルテージという機械(数千万円)ですとリーズナブルになりますが、それでも全身麻酔が毎回必要ですので数十万円はかかります。
⑦ この治療が向いている子
こんな場合に有効です
・手術が難しい場所の腫瘍
・痛みや出血で生活の質が落ちている
・麻酔に耐えられる体力がある
症状改善を強く願いますが、実際に効果が出るのは3頭中2頭(60〜70%)です。照射できてもすべてがハッピーとは限りません。迷われている場合は、「何を優先したいか(延命か、生活の質か)」を一緒に考えることが大切です。
放射線治療:切除ができないときだけ?
放射線治療適応:こんな子がいいです
放射線治療効果:小さくならない?
放射線治療の副作用:意外と少ないです
放射線治療の麻酔:こんなことに注意
放射線治療スケジュール:こんな感じです
放射線治療の体調管理:お願いしていました
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獣医師 圓尾真理
獣医師 圓尾拓也
日本獣医がん学会 腫瘍科認定医1種(I種)
放射線取扱主任者1種
博士(獣医学)
エビデンスにもとづいた情報発信に努めます。