犬の膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨、いわゆる膝のお皿が本来の溝から内側または外側へ外れる病気です。小型犬では内側への脱臼が多く、一般には「パテラ」と呼ばれています。診断されると、すぐに手術をした方がよいのか、保存療法で様子を見てもよいのか迷います。ただし、治療方針はグレードの数字だけでは決まりません。痛みや跛行の頻度、年齢、筋肉量、骨格変形、前十字靱帯などの併発疾患を合わせて判断します。
執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
膝蓋骨脱臼のグレードと症状
グレード1は、手で押すと外れますが自然に戻る状態です。グレード2では歩行中にも外れることがあり、数歩だけ後ろ足を挙げたり、スキップするように歩いたりします。グレード3では普段から脱臼していますが、手で一時的に戻せます。グレード4では常に脱臼し、手で押しても戻りません。
重度になるほど骨の湾曲やねじれを伴いやすくなりますが、同じグレード2でも、ほとんど症状のない犬もいれば、毎日のように足を挙げる犬もいます。グレードは治療を考える目安であり、手術の必要性を決める数字ではありません。
保存療法で経過を見られる場合
グレード1で症状がない場合や、グレード2でも脱臼がまれで、痛みや跛行がほとんどない場合には、保存療法で経過を見られることがあります。高齢や基礎疾患によって麻酔リスクが高い犬でも、保存療法が選択されます。
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大切なのは体重管理と生活環境です。滑りやすい床にはマットを敷き、爪や足裏の毛を整え、ソファなどからの飛び降りを減らします。運動を完全に禁止するのではなく、痛みのない範囲で平地を歩き、太ももの筋肉を維持します。必要に応じて消炎鎮痛薬やリハビリテーションも利用します。
ただし、保存療法で膝の骨格や膝蓋骨の位置そのものが治るわけではありません。症状がないから放置するのではなく、歩き方、痛み、筋肉量、脱臼の頻度を定期的に確認します。
手術を検討するタイミング
手術を考える主な理由は、グレードではなく、脱臼によって犬が困っていることです。足を挙げる回数が増えた、散歩を嫌がる、痛がる、太ももの筋肉が細くなった、膝蓋骨が戻りにくい、骨格変形が進んでいる場合には手術を検討します。
一般には、症状を伴うグレード2と、グレード3・4が手術の対象になります。若齢犬では、脱臼した状態で成長すると骨の変形が進む可能性があるため、早めに手術を考えることがあります。一方、無症状のグレード1を予防だけの目的で手術することは一般的ではありません。
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手術で膝全体のずれを修正する
手術は、外れた膝蓋骨を単に戻す処置ではありません。浅い溝を深くする滑車溝形成術、膝蓋靱帯の付着部を移動する脛骨粗面転位術、周囲の軟部組織を調整する方法などを組み合わせ、膝蓋骨が膝の中央を動くように修正します。骨の変形が強い場合には、骨を切って角度を直す矯正骨切り術が必要になることもあります。
手術成績は全体として良好ですが、再脱臼、感染、固定に使ったピンの移動、骨の癒合不全などが起こる可能性はあります。また、すでに生じた軟骨損傷や関節炎が完全に元へ戻るわけではありません。
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保存療法と手術は対立する治療ではありません
軽症では、体重管理や環境整備、適切な運動を続けながら経過を観察します。症状が増えたり骨格変形が進んだりすれば、手術によって構造を修正します。手術後にも体重管理、滑り止め、運動制限、疼痛管理、リハビリテーションが必要です。
「グレード2だから手術」「グレード1だから大丈夫」と数字だけで決めるのではなく、その犬が痛がっているか、歩き方が変わったか、筋肉が落ちていないかを確認し、現在の症状と将来のリスクを見ながら治療方法を選ぶことが大切です。
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