薬はなぜ効き、なぜ効かなくなる?イベルメクチンから抗がん剤耐性まで

薬は、同じ量を使ってもすべての犬に同じように効くわけではありません。ある犬では安全な薬が、別の犬では中毒を起こすことがあります。

また、最初はよく効いていた抗がん剤が、治療を続けるうちに効かなくなることもあります。

一見まったく違う現象ですが、そこには「薬を体内や細胞内から外へ出す仕組み」が関係しています。

このシリーズでは、イベルメクチン、ABCB1(MDR1)遺伝子、P糖タンパク、そして抗がん剤の多剤耐性までを順番に見ていきます。

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

イベルメクチンはなぜ一部の犬で中毒を起こす?

イベルメクチンは、日本の土壌から見つかった放線菌をきっかけに開発された抗寄生虫薬です。犬ではフィラリア予防などに長く使われています。

ところが、コリーやシェルティなど一部の犬では、高用量のイベルメクチンによって神経症状が起こりやすいことが分かりました。

その原因として知られているのが、ABCB1遺伝子の変異です。

→ イベルメクチンは何から発見された?コリー・シェルティで注意が必要な理由

P糖タンパクは薬を外へ追い出している

ABCB1遺伝子が作るのが「P糖タンパク」です。

P糖タンパクは細胞膜に存在し、薬物などを細胞の外へ排出するポンプとして働きます。特に血液脳関門では、薬物が脳へ入り込みすぎないようにしています。

ABCB1変異犬ではこの働きが弱くなるため、イベルメクチンなどが脳内へ入りやすくなります。

ところが、がん細胞では逆のことが起こります。P糖タンパクを増やして抗がん剤を細胞外へ追い出すことで、薬が効きにくくなることがあります。

→ P糖タンパクとは?犬の薬物中毒と抗がん剤耐性をつなぐ仕組み

がん治療はどのように発展した?

現在のがん治療には、外科手術、放射線治療、抗がん剤という大きな柱があります。

古い順に並べると、外科手術、放射線治療、抗がん剤です。

19世紀に麻酔と消毒法が発達して近代外科が発展し、1895年にはレントゲンがX線を発見しました。そして1940年代になると、ナイトロジェンマスタードなどを使った化学療法が始まります。

→ がん治療はどれが古い?外科・放射線・抗がん剤の歴史

なぜ抗がん剤を何種類も使うの?

一つの抗がん剤だけでは、生き残るがん細胞が出てくることがあります。

そこで考えられたのが、作用の異なる薬を組み合わせる「多剤併用療法」です。
→ 犬・猫の化学療法(抗がん剤)まとめ|効果・副作用・考え方

犬のリンパ腫で使われるCOPやCHOPもその代表です。CHOPでは、植物由来のビンクリスチン、放線菌由来のドキソルビシンなど、性質や作用の異なる薬を組み合わせます。

一方で、がん細胞がP糖タンパクを増やすと、ビンクリスチンやドキソルビシンなどを細胞外へ排出し、複数の抗がん剤が効きにくくなる「多剤耐性」が起こることがあります。

→ リンパ腫の二大治療法:CHOP vs COP

イベルメクチン中毒では、P糖タンパクの働きが弱いため、薬が脳に入りすぎてしまいます。

一方、がん細胞ではP糖タンパクが増えることで、抗がん剤を外へ追い出し、薬が効きにくくなることがあります。

薬が効くかどうかは、薬そのものの作用だけではなく、体や細胞がその薬をどう扱うかによっても決まります。

イベルメクチンから抗がん剤まで、一見関係のなさそうな話も、「薬を取り込み、排出する仕組み」という視点から見るとつながってきます。

▼ この仕組みをもう少し詳しく
→ P糖タンパクとは?犬の薬物中毒と抗がん剤耐性をつなぐ仕組み
▼ 抗がん剤治療全体について
→ 犬・猫の化学療法(抗がん剤)まとめ|効果・副作用・考え方

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