ホーム > 腫瘍まとめ > ケア > 「がんの治療をしない」という愛情の形。緩和ケアでできること。
執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
「がんです」と告知されたとき、頭に浮かぶのは手術や抗がん剤といった「戦う治療」かもしれません。しかし、高齢だったり持病があったりする場合、「これ以上の負担をかけたくない」と悩むのは、ごく自然なことです。今回は、積極的な治療を選択しない場合の「もうひとつの前向きな選択」についてお話しします。
1. 「治療をしない」は、決して「諦める」ことではない
「手術をしない=見捨てること」と自分を責めてしまう飼い主さんがいらっしゃいます。でも、それは違います。「これ以上痛い思いをさせたくない」「住み慣れた家で穏やかに過ごさせてあげたい」という願いは、その子を深く愛しているからこそ辿り着く、尊い決断です。根治を目指してがんと戦うのではなく、「その子らしく過ごせる時間」を少しでも長く、最大化すること。それが「緩和ケア」という前向きな選択肢です。
2. 獣医師が提案する「攻めの緩和ケア」
緩和ケアとは、単に「何もしないで見守る」ことではありません。QOL(生活の質)を維持するために、医学の力でできることはたくさんあります。
• 痛みのコントロール
動物は痛みを隠すのが得意です。「鳴かないから大丈夫」ではありません。最新の鎮痛薬やサプリメントで、隠れた「重だるい痛み」を取り除いてあげるだけで、表情が劇的に明るくなり、再び尻尾を振って歩き出す子も少なくありません。
• 緩和放射線治療
がんと戦うためではなく、腫瘍による圧迫や痛みを取り除くためだけに、数回だけ照射する方法があります。通常の放射線治療よりも体への負担が少なく、痛みが引くことで「最期まで自分の足で歩ける」時間を支えることができます。
• 食事と環境の工夫
「食べさせなきゃ」と必死になる必要はありません。今の体調でも美味しく食べられる工夫や、体温調節を助ける環境づくりなど、今日からお家でできる「愛情の形」を一緒に考えていきましょう。
3. 「やめどき」に迷ったら、自分に問いかけてほしいこと
治療をどこまで続けるか迷ったときは、ぜひ一度立ち止まって、その子の日常を観察してみてください。
「その子に今、楽しい瞬間(しあわせな時間)がありますか?」
大好きなジャーキーを食べる瞬間、お気に入りの場所での日向ぼっこ、飼い主さんの撫でてくれる手。その小さな幸せが守られているなら、それは立派なゴールです。「もうこれ以上の積極的な治療は望まない」と、主治医に正直に伝えてもいいのです。その決断を尊重し、最期まで伴走するのが、私たち獣医師の仕事です。
4. 看病がつらくなったとき、選べる「引き算」のケア
あまりにもつらそうで、見ていられない。かといって、安楽死の決断もできない。そんな、心が張り裂けそうな状況に陥ることもあります。そのときは、無理をせず「引き算」のケアを考えましょう。
例えば、点滴をやめてみる。
良かれと思って体調を整えようとすることが、結果として苦しい時間を長引かせてしまうこともあります。
また、ステロイドを活用する。
ステロイドには「多幸感」をもたらす効果があると言われています。長期服用による副作用を心配されるかもしれませんが、このステージにおいて、未来の副作用を怖がる必要はありません。今この瞬間の「気分の良さ」を優先してあげて良いのです。
5. まとめ:最期まで「その子らしく」あるために
がんという病気に勝つことだけが、正しいゴールではありません。「この子との時間は本当に幸せだった」と、飼い主さんが笑顔で振り返ることができる。その穏やかな最期をサポートすることが、その子への一番の供養になると私は信じています。
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獣医師 圓尾真理
獣医師 圓尾拓也
日本獣医がん学会 腫瘍科認定医1種(I種)
放射線取扱主任者1種
博士(獣医学)
エビデンスにもとづいた情報発信に努めます。
