ホーム > 腫瘍まとめ > 治療 > 犬と猫の「しこり」と痛み
執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
【本記事の結論】
・無痛性の腫瘍42%
・診察で発覚する痛みが発覚:21%
・痛みが出たときには病状が進行
「腫瘍は痛みを伴う?」「痛みだけは取ってあげたい」とよく言われます。特定の腫瘍は痛みや何らかの神経症状を持っているのが明確です。放射線治療というと末期のことが多いのですが、全員が痛がっているわけではありません。押さえると痛いけど普通にすると痛みを示さないこともあります。その感覚が正しいか、学術報告に基づき、腫瘍に伴う疼痛の正体について解説します。
1. 数字で見る「しこり」と痛みの関係
1,500頭以上の犬を対象とした大規模な調査では、腫瘍のある犬の約58%に何らかの疼痛が関与していることが示唆されています。
・臨床的に疼痛を認めなかった症例:42.0%
・飼い主様が疼痛を認識していた症例:38.0%
(跛行や元気消失など、日常生活で気づけるサインがある状態)
・診察時にのみ疼痛が発覚した症例:21.0%
(家庭では普通に見えても、身体検査で初めて反応が出る状態)
日常の「加齢による衰え」に見える変化が、実は腫瘍による慢性的な痛みである可能性は決して低くありません。
2. なぜ「痛いしこり」と「痛くないしこり」があるのか
・良性腫瘍(脂肪腫など)
通常は痛みません。周囲の組織を破壊せず、ゆっくり押し広げるように大きくなるためです。ただし、巨大化して神経を圧迫したり、表面の皮膚が炎症(潰瘍)を起こすと痛みが生じます。
・悪性腫瘍(癌)
周囲の組織を破壊しながら浸潤します。癌細胞が放出する物質や、組織の壊死、炎症、神経への直接的な浸潤によって、複雑で強い痛みを引き起こします。
3. 特に激しい痛みを伴う「要注意」な腫瘍
以下の疾患は、獣医療において「最も痛みが強い」とされる代表的な腫瘍です。
・猫の口腔内扁平上皮癌 (FOSCC)
顎の骨を溶かしながら進行します。食事をしたいのに、口を動かす激痛のために食べられないという、非常に辛い状態を招きます。
・骨肉腫 (OSA)
骨の内部から破壊が進みます。神経成長因子(NGF)の影響で、腫瘍内に痛みを感じる神経が異常に増殖するため、触れるだけで激痛が走ることもあります。
・犬の炎症性乳癌 (IMC)
乳腺全体が赤く腫れ上がり、強い熱感を伴います。大量の炎症物質により、皮膚が非常に過敏になります。
・末梢神経鞘腫瘍 (PNST)
神経そのものから発生する腫瘍です。電気信号を伝える回路が直接ダメージを受けるため、通常の痛み止めが効きにくい難治性の痛みが特徴です。
4. 痛みに対するアプローチ:マルチモーダル鎮痛
痛みの程度に応じて、WHO(世界保健機関)の三段階除痛ラダーの考え方をベースに、動物の状態に合わせた最適な薬剤を選択します。 軽い違和感の段階から、骨転移などの強い痛みまで、我慢させることのないシームレスなコントロールを目指します。
・内服薬の最適化:消炎鎮痛剤に加え、神経の興奮を抑える薬やNMDA受容体拮抗薬を併用します。
・最新の抗体療法:神経成長因子(NGF)を標的とした最新の注射薬(抗NGF抗体)を活用します。
・ゾメタ:骨の破壊を抑え、痛みの根源を緩和する治療を検討します。
みなさまへのメッセージ
「しこり」を見つけたとき、私たちが最も大切にしているのは「その子が今日一日を、痛みなく快適に過ごせているか」という視点です。
「痛がっていないから様子を見よう」と判断する前に、専門的な視点でのチェックを受けることが、大切な家族のQOLを守る第一歩となります。どんなに小さなしこりでも、お気軽にご相談ください。
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獣医師 圓尾真理
獣医師 圓尾拓也
日本獣医がん学会 腫瘍科認定医1種(I種)
放射線取扱主任者1種
博士(獣医学)
エビデンスにもとづいた情報発信に努めます。
