犬・猫の腫瘍随伴症候群|がんが離れた場所に起こす異常

犬や猫の腫瘍では、しこりが大きくなったり周囲の臓器を圧迫したりする以外にも、全身にさまざまな異常を起こすことがあります。腫瘍が作るホルモンや生理活性物質、あるいは腫瘍に対する免疫反応によって、腫瘍とは離れた場所に症状が現れる状態を「腫瘍随伴症候群(Paraneoplastic Syndrome:PNS)」と呼びます。

腫瘍随伴症候群は、腫瘍そのものが見つかる前に現れることがあります。そのため、「水を異常に飲む」「突然ふらつく」「左右対称に毛が抜ける」「四肢が腫れる」といった、一見がんとは関係なさそうな症状が、腫瘍発見のきっかけになることがあります。

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

高カルシウム血症

重要なものの一つに、腫瘍に伴う高カルシウム血症があります。リンパ腫肛門嚢アポクリン腺癌、多発性骨髄腫などでみられます。腫瘍がPTHrPなどの物質を作ることで血液中のカルシウムが上昇し、多飲多尿、食欲低下、嘔吐、便秘、元気消失などが起こります。重症になると腎障害や不整脈を起こすこともあります。

血液検査でカルシウム高値が確認された場合、必要に応じてイオン化カルシウムを測定し、リンパ節、肛門嚢、胸部、腹部などを調べて原因となる腫瘍を探します。

低血糖

腫瘍によって血糖値が異常に下がることもあります。代表的なのが膵臓のインスリノーマです。血糖値が低いにもかかわらずインスリンが分泌され続けるため、ふらつき、震え、脱力、虚脱、けいれんなどが起こります。

また、肝細胞癌などインスリノーマ以外の腫瘍でも低血糖が起こることがあります。「空腹になると元気がなくなり、食べると改善する」といった症状は、血糖値を調べるきっかけになります。

四肢が腫れる肥大性骨症

肺腫瘍など胸腔内の病変に伴って、四肢の骨の周囲に新しい骨が形成される「肥大性骨症」が起こることがあります。四肢が左右対称に腫れ、歩きたがらない、跛行するといった症状がみられます。足の異常をきっかけに胸部を検査し、肺の腫瘍が見つかることもあります。

胸腺腫と重症筋無力症

胸腺腫では、免疫の異常によって重症筋無力症を起こすことがあります。筋肉が疲れやすくなり、歩いているうちに力が入らなくなったり、巨大食道症によって食べ物を吐出したりします。巨大食道症では誤嚥性肺炎にも注意が必要です。

精巣腫瘍や肥満細胞腫による異常

雄犬のセルトリ細胞腫ではエストロゲンが過剰に作られ、左右対称の脱毛、乳腺の腫大、精巣の萎縮などがみられることがあります。重症になると骨髄の働きまで抑えられ、貧血や白血球減少、血小板減少を起こすことがあります。

犬の肥満細胞腫では、ヒスタミンなどが放出されることで胃酸分泌が増え、嘔吐、食欲低下、胃・十二指腸潰瘍、消化管出血などを起こすことがあります。しこりが小さくても、全身への影響が大きい場合があります。

原因不明の異常から腫瘍が見つかることもある

腫瘍随伴症候群で重要なのは、これらの症状があるからといって、必ず腫瘍があるわけではないということです。多飲多尿、低血糖、脱毛、跛行、貧血などには、それぞれ多くの原因があります。

一方で、通常の病気では説明しにくい異常が続く場合や、血液検査で原因不明の高カルシウム血症や低血糖などが見つかった場合には、「どこかに腫瘍が隠れていないか」という視点が診断につながることがあります。

腫瘍随伴症候群は、一見するとがんとは関係のない全身の変化が、腫瘍を知らせる最初のサインになることがあります。

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