犬の組織球性肉腫|進行が早い悪性腫瘍の症状、検査、治療、緩和ケア

犬の組織球肉腫は、免疫に関わる「組織球」と呼ばれる細胞が悪性化して起こる腫瘍です。進行が早く、発見された時点ですでに肺、肝臓、脾臓、リンパ節、骨などへ広がっていることがあります。

腫瘍の中でも悪性度が高く、無治療では数週間から数か月で急速に悪化することがあります。そのため、疑った時点で、できるだけ早く検査を進め、治療するのか、緩和ケアを中心にするのかを判断する必要があります。

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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)

好発犬種

組織球肉腫はどの犬種にも発生しますが、特に多い犬種があります。

バーニーズ・マウンテン・ドッグ、フラット・コーテッド・レトリーバー、ロットワイラー、ウェルシュ・コーギー、ミニチュア・シュナウザーなどでは注意が必要です。

特にバーニーズ・マウンテン・ドッグやフラット・コーテッド・レトリーバーでは、比較的若い年齢から発生することがあります。足の痛み、しこり、元気食欲の低下、体重減少、呼吸器症状などを起こすことがあります。

組織球肉腫のタイプ

組織球性肉腫には、いくつかの病型があります。

ひとつは、皮膚、関節周囲、脾臓、肝臓、肺などに単独の腫瘤として発生する「孤立性組織球肉腫」です。早い段階で見つかり、完全に切除できる場合には、比較的長く過ごせることがあります。ただし、見た目には単発でも、すでに小さな転移が起きていることがあります。

もうひとつは「播種性組織球肉腫」です。肺、肝臓、脾臓、リンパ節など複数の臓器に広がるタイプです。進行が早く、治療をしても病気を完全に抑えることは難しいことが多くなります。

さらに悪性度が高いものに「血球貪食性組織球肉腫」があります。脾臓や骨髄に発生し、赤血球や血小板などの血液細胞が壊され、重度の貧血、血小板減少、出血傾向、急激な衰弱を起こします。このタイプは特に予後が厳しく、治療よりも苦痛を減らすことを優先する場合があります。

よく見られる症状

症状は、腫瘍ができた場所によって変わります。

関節や骨の近くにできると、足を引きずる、歩きたがらない、痛がる、足が腫れるといった症状が出ます。骨に浸潤すると強い痛みや病的骨折を起こすこともあります。

肺に病変がある場合は、咳、息が荒い、疲れやすい、呼吸が苦しそうといった症状が出ます。脾臓や肝臓に病変がある場合は、元気がない、食欲が落ちる、お腹が張る、体重が減るなどの変化が見られます。

血球貪食性の場合は、急な貧血、ふらつき、歯ぐきが白い、出血しやすい、ぐったりするなど、全身状態が急激に悪化することがあります。

検査と診断

組織球肉腫が疑われる場合、まず身体検査、血液検査、レントゲン検査、超音波検査を行います。肺転移、肝臓や脾臓の病変、リンパ節の腫れ、貧血や血小板減少がないかを確認します。

病気の広がりを詳しく見るには、CT検査が有用です。特に手術を検討する場合や、肺や骨、関節周囲の病変を評価する場合には、CTによるステージングが重要になります。

確定診断には、細胞診や病理組織検査が必要です。組織球性肉腫は、炎症性病変や他の肉腫と見分けが難しいことがあります。そのため、病理検査に加えて、免疫染色などの追加検査が必要になることがあります。

治療方針

治療は、単発か多発か、転移があるか、全身状態が保てているかによって変わります。

孤立性で切除可能な場合は、外科手術を検討します。ただし、組織球肉腫は転移しやすいため、手術だけで終わるのではなく、術後に抗がん剤を組み合わせることがあります。

全身に広がっている場合や、手術が難しい場合には、抗がん剤治療が中心になります。代表的な薬にロムスチンがあります。組織球性肉腫で比較的よく使われる薬ですが、白血球減少、血小板減少、肝障害、食欲低下などの副作用に注意が必要です。治療中は血液検査を行いながら、投与間隔や量を調整します。

分子標的薬であるトセラニブを使うこともあります。腫瘍の血管新生や増殖に関わる経路を抑えることで、病勢の安定化を期待します。ただし、下痢、食欲低下などに注意が必要です。

放射線治療は、局所の腫瘍や骨病変による痛みの緩和に役立つことがあります。特に痛みが強い場合、歩行がつらい場合、局所制御が必要な場合には、専門施設で相談する価値があります。

緩和ケアと生活の質

組織球性肉腫では、治療をしても進行を完全に止められないことがあります。そのため、早い段階から「どこまで治療するか」と同時に、「どうすれば楽に過ごせるか」を考えることが大切です。

痛みがある場合は、消炎鎮痛薬、オピオイド系鎮痛薬、神経痛に使う薬、骨病変に対するビスホスホネート製剤などを組み合わせます。骨の痛みは強いため、我慢させないことが重要です。

ステロイドは、食欲改善、炎症の軽減、腫瘍周囲の腫れの改善に役立つことがあります。ただし、今後抗がん剤治療を行う可能性がある場合は、ステロイドを先に使うことで治療方針に影響することがあります。開始前に、今後の治療全体を考えて判断します。

在宅では、食べられているか、眠れているか、痛みで動けないか、呼吸が苦しくないかを見ます。体重の急な減少、食欲の低下、呼吸の悪化、ふらつき、出血、強い痛みがある場合は、早めに動物病院へ相談してください。

まとめ

犬の組織球性肉腫は、進行が早く、転移しやすい悪性腫瘍です。特に好発犬種では、足の痛み、しこり、元気食欲の低下、体重減少、咳や呼吸の異常が見られた時に、早めに検査を進めることが大切です。

治療には、手術、ロムスチンなどの抗がん剤、トセラニブなどの分子標的薬、放射線治療、痛みの緩和を組み合わせます。ただし、すべての症例で積極的治療が適しているわけではありません。

大切なのは、腫瘍を小さくすることだけではありません。その犬が痛みなく過ごせるか、呼吸が楽か、食べられるか、家族と穏やかな時間を持てるかです。

組織球性肉腫が疑われる、または診断された場合は、時間をかけすぎず、腫瘍診療に詳しい動物病院や二次診療施設への相談も含めて、早めに方針を決めることが重要です。

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