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執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
犬の溶血性貧血(免疫介在性溶血性貧血:IMHA)は、免疫が自分自身の赤血球を壊してしまう病気です。通常はステロイドや免疫抑制剤で治療しますが、なかなか反応しない場合や、輸血を繰り返す場合があります。そのような一部の症例では、脾臓への低線量放射線治療を検討することがあります。
放射線治療は、がんだけの治療ではありません。少ない線量で、過剰な免疫反応を落ち着かせる目的で使うことがあります。
なぜ脾臓に放射線をあてるのでしょうか
脾臓は、古くなった赤血球を処理する臓器です。しかしIMHAでは、正常な赤血球まで壊す場所になってしまうことがあります(脾機能亢進)。脾臓に少量の放射線をあてることで、脾臓に集まる過剰な免疫反応を弱め、赤血球が壊される勢いを落とせる可能性があります。
どのような場合に検討しますか
放射線治療は、IMHAの一般的な第一選択ではありません。まずはステロイド、免疫抑制剤、抗血栓治療、輸血などを組み合わせて治療します。
それでも改善が乏しい場合、次のような状況で検討されることがあります。
・ステロイドだけでは改善しない
・複数の免疫抑制剤を使っても反応が弱い
・輸血を繰り返している
・薬の副作用が問題になっている
・脾臓摘出手術の負担が大きい
・これ以上、薬だけで押し切ることが難しい
このようなとき、放射線治療は「もう何もできない」という意味ではなく、追加で考えられる選択肢のひとつになります。
脾臓摘出を考える前に
IMHAでは、脾臓摘出が検討されることがあります。脾臓が赤血球を壊す主な場所になっている場合、脾臓を取ることで貧血が落ち着く可能性があるためです。
ただし、脾臓を取れば必ず改善するわけではありません。赤血球が壊されている場所が、脾臓中心とは限らないからです。肝臓や血管内での破壊、免疫反応全体の強さが関係している場合もあります。
その点で、脾臓への低線量照射は、脾臓摘出に意味があるかを考える材料になることがあります。照射後に貧血の進行が落ち着く、輸血の間隔があく、赤血球の数値が改善する、といった反応があれば、「脾臓が病態に関わっている可能性がある」と判断しやすくなります。
もちろん、照射に反応したから必ず脾臓摘出が有効とは言い切れません。反対に、照射に反応しないから脾臓摘出が絶対に無意味とも言い切れません。
それでも、いきなり手術を決めるより、体への負担が比較的少ない方法で脾臓の関与を探る、という考え方はあります。
どのような治療をしますか
脾臓に少量の放射線を照射します。1回1Gyを3回程度行うことがあります。まだ始まったばかりで定説はありません。
ただ、がん治療で使う線量よりもかなり少ない線量です。目的は腫瘍を小さくすることではなく、脾臓で起きている免疫反応を落ち着かせることです。
通常は、免疫抑制剤を中止せず、併用しながら行います。
効果はいつ判断しますか
治療直後に劇的に改善するとは限りません。数日から数週間かけて、貧血の進行が止まるか、赤血球の数値が上がるかを見ていきます。
食欲、元気、呼吸の速さ、黄疸の変化、輸血が必要になる間隔なども含めて判断します。
副作用はありますか
低線量のため、放射線そのものによる大きな副作用は比較的少ないと考えられます。
ただし、治療には全身麻酔や鎮静が必要になることがあります。重度の貧血、血栓症、黄疸、全身状態の悪化がある場合は、麻酔そのもののリスクを慎重に考える必要があります。
放射線治療ができるかどうかは、「病名」だけでは決まりません。その子の貧血の程度、呼吸状態、血液検査、輸血への反応、移動の負担などを含めて判断します。
放射線治療は最後の手段なのでしょうか
最後の手段というより、選択肢のひとつです。
IMHAは、薬を使えば必ず治る、脾臓を取れば必ず治る、放射線をあてれば必ず治る、という病気ではありません。治療への反応には個体差があります。
だからこそ、今の治療で何が足りないのか、脾臓がどれくらい関わっていそうか、手術の負担に見合う可能性があるかを整理することが大切です。
IMHAに対する放射線治療は新しい治療ですが、脾臓摘出の前に脾臓の関与を探る方法として、また薬だけでは難しい場合の補助治療として、検討できることがあります。
麻布大学の阪野先生がACVIMで発表なさりました。
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