▼ 現在地:治療 > 化学療法 > 本記事
▼ カテゴリー
症状|検査|腫瘍|治療|ケア|その他
執筆:圓尾 拓也(腫瘍科認定医・獣医学博士)
腫瘍を手術で取りきれたように見えても、抗がん剤をすすめることがあります。これは「念のために強い治療をする」という意味ではありません。目に見えない小さながん細胞、つまり微小転移や取り残しの可能性に備える治療です。
画像検査で転移が見えない。手術で腫瘍を取った。病理検査でも大きな問題がなさそう。そう見えても、腫瘍の種類によっては、すでに血液やリンパの流れに乗って小さながん細胞が体の中に散らばっていることがあります。術後補助化学療法は、その段階のがん細胞をできるだけ抑え、再発や転移の可能性を下げるために行います。
すべての犬や猫に必要な治療ではありません
手術後の抗がん剤は、すべての腫瘍に必要なわけではありません。むしろ、必要な場合と、あまり意味がない場合を分けて考えることが大切です。
判断には、腫瘍の種類、悪性度、病理検査の結果、切除マージン、リンパ管や血管への浸潤、リンパ節転移の有無、年齢、体力、持病、通院の負担などを合わせて考えます。
たとえば、再発や転移のリスクが高い腫瘍では、術後補助化学療法を行う意味があります。一方で、再発リスクが低い腫瘍や、抗がん剤への感受性が低い腫瘍では、抗がん剤を使っても利益が小さいことがあります。
目的は「今ある腫瘍を小さくすること」ではない
術後補助化学療法では、すでに大きな腫瘍が体に残っていないことも多いため、治療の効果が目に見えにくいです。腫瘍が小さくなった、という変化で判断できないことがあります。
目的は、将来の再発や転移を減らすことです。そのため、治療をしても「効いている実感」が少ない一方で、副作用や通院の負担は実際にあります。ここが、飼い主さんにとって悩ましいところです。
抗がん剤を使うかどうかは、利益と負担で考える
術後補助化学療法を考えるときは、「やった方がよいか」だけでなく、「その犬や猫にとって続けられる治療か」を考えます。
期待できる利益は、再発や転移のリスクを下げること、再発までの時間を延ばすこと、生存期間を延ばすことです。一方で、食欲低下、嘔吐、下痢、白血球減少、通院、検査、費用、家庭での管理といった負担があります。
術後補助化学療法を検討しやすいケース
悪性度が高い腫瘍、血管やリンパ管への浸潤がある腫瘍、リンパ節転移が疑われる腫瘍、手術で完全に取りきれたか不安が残る腫瘍、もともと転移しやすい腫瘍では、術後の抗がん剤を検討します。
ただし、病名だけで決めるものではありません。同じ腫瘍名でも、場所、大きさ、病理結果、全身状態によって判断は変わります。
まとめ
手術後の抗がん剤は、「念のため」ではなく、目に見えないがん細胞を抑え、再発や転移を減らすための治療です。
口腔メラノーマで治療をなさっておられた飼い主さんは「治療を受けるたびに寿命が伸びていると思うと抗がん剤を受けられることが嬉しい」とおっしゃられておりました。感謝。
▼ 化学療法まとめ に戻る
▼ 関連記事
→ 抗がん剤は「ボクシング」か「ダンス」か
→ リンパ腫のCHOP vs. COP
→ 抗がん剤の副作用は?
▼ 腫瘍の記事をカテゴリーから探す
症状|検査|腫瘍|治療|ケア|その他